恋人との初めてのデート

 家に着いて、玄関のドアを開ける。

 

「ただいまー」

 

「おかえりー!」

 

 リビングから、ママの明るい声が聞こえてきた。

 

 スニーカーを脱いで、リビングに向かう。

 

 ママとパパがソファに座って、テレビを見ていた。お姉ちゃんは、テーブルでスマホを見ている。

 

「おかえり、律ちゃん。生徒会、お疲れ様」


 お姉ちゃんが、優しく微笑んでくれた。


 私のお姉ちゃんは温厚で静かなタイプだ、だけどしっかり芯を持っていてとても頼りになる人という感じだ。

 

「ただいま、お姉ちゃん」

 

「律今日は遅かったね。何かあった?」

 

 お姉ちゃんが心配そうな声色でそういうとママも、こちらを振り返る。

 

「ううん、別に……いつも通りだよ」

 

「そう? なんか顔、赤いけど」

 

「え!?」

 

 思わず、両手で顔を覆った。


 まだ顔赤いって、恥ずかしい。

 

「あら、本当だ。熱でもあるの?」

 

 ママが心配そうに近づいてくる。

 

「だ、大丈夫! ちょっと暑かっただけだから!」


 バッとママと距離を取った。

 

「そう? ならいいけど……」

 

 ママは、少し不思議そうな顔をしている。

 

「ねえねえ、律ちゃん」

 

 パパが、ニヤニヤしながら言った。


 パパはこういう恋愛のことに関してはすごく察しがいいというか、勘がいい。

 

「もしかして、彼氏でもできた?」

 

「な、なんでそうなるの!?」

 

 私は、慌てて否定した。

 

「だって、最近すごく幸せそうな顔してるし」

 

「そ、そんなことないよ!」

 

「本当にー?」

 

 パパが、からかうように笑う。

 

「ほんとだよ!」

 

「嘘ばっかり。顔、真っ赤だよ」

 

 お姉ちゃんまでパパに乗っかるように、くすくす笑っている。

 

「お姉ちゃんまで……!」

 

「で、どんな子なの?」

 

 ママが、身を乗り出してくる。

 

「だから、いないって……」

 

「生徒会の子?」

 

 ……図星だ。


 私は目を逸らして、だんまりすることしかできなかった。


「あら、また黙っちゃった」

 

「もう……!」

 

 私は、逃げるようにリビングを出た。

 

「律ちゃーん、逃げないのー!」

 

 ママの声が、後ろから聞こえてくるのを振り払うように、私は自分の部屋に駆け込んで、ドアを閉めた。

 

「はあ……」

 

 ベッドに倒れ込む。

 

 顔が、また熱くなってきた、

 

 私は、その熱を冷ますように枕に顔を埋めた。

 

 *

 

 夜、お風呂に入って、ベッドに横になる。スマホを開くと、由奈ちゃんからメッセージが来ていた。


『律先輩、無事に帰れましたか?』


 そのメッセージを見て少し頬を綻ばせた。


 優しい子だなぁ。


 私は速攻メッセージを打つ。


『うん、今お風呂入ってきたところ』


 私が送信すると、すぐに既読がついて返信が来た。


『よかったです! 今日は、ありがとうございました』


 ん? なんかお礼されるようなことしたっけな。


『なにが?』


『なにって、ハグさせてくれてですよ』


 ハグ。そのメッセージを見て改札のときのことを思い出した。


 ううう、思い出しちゃった。


『恥ずかしかったんだからね』


『かわいかったですよ』


『そういうこと言わないの』


『嫌ですか?』


 私は指を止めてメッセージを見て考える。


 嫌か聞かれたら嫌じゃないけど、恥ずかしくて死んじゃいそうになる。


『嫌じゃないけど、恥ずかしいからダメです』


『律先輩、可愛すぎますよ』


 なんもわかってないじゃん!


『もう寝るからね』


『えー、まだ早いじゃないですか』


『明日も学校あるし』


『わかりました。じゃあ、おやすみなさい』


『おやすみ、由奈ちゃん』


 メッセージを閉じようとしたとき、また通知が来た。


『大好きですよ、律先輩』


 その言葉を見て、私の顔は一気に熱くなった。


 もう……こんなの、反則だよ……。


 私は、しばらく悩んでから——。


『私も、大好きだよ』


 送信した。


 すぐに既読がついて、返信が来る。


『えへへ、嬉しいです。おやすみなさい、律先輩』


 私は、スマホを充電器に置いて、電気を消し、暗闇の中私は目を閉じた。


 でも、由奈ちゃんのことを考えると、なかなか眠れない。


 ハグの感触。『大好きです』という言葉。


 全部が、頭の中をぐるぐる回ってしまう。


 もうー!


 私は枕に顔をうずめてそのまま寝てしまった。



 次の日。


 校門で由奈ちゃんと待ち合わせていた。


「律先輩! おはようございます!」


 由奈ちゃんが、笑顔で駆け寄ってくる。


「おはよう、由奈ちゃん」


 由奈ちゃんは、ぴょんっとジャンプして私の隣を歩き始めた。


「昨日は、メッセージありがとうございました」


「え、いや……別に……」


 昨日のメッセージを思い出して、少し恥ずかしい気持ちになった。


 なんか、普通に接してきてるけど、昨日だ、大好きとか言ったんだよね。なんかちょっと照れる。


「ねえ、律先輩」


「なに?」


 由奈ちゃんが、少し恥ずかしそうに言った。


「今度の休み……空いてますか?」


「え? たぶん大丈夫だけど……」


「じゃあ……」


 由奈ちゃんが、私の腕をぎゅっと握る。


「一緒に、遊びに行きませんか?」


 由奈ちゃんが珍しく緊張した雰囲気で誘ってくる。


「遊びに?」


「はい。デート、です……」


 デート。


 その言葉を聞いて、私の心臓がドキドキした。


「デ、デート!?」


「はい。恋人なんですから、デートくらいしたいです」


「そ、それはそうだけど……」


 周りに人がいるのに、由奈ちゃんは平気な顔でそんなことを言う。


「ダメ、ですか?」


「ダメじゃないけど……」


 由奈ちゃんが、上目遣いで私を見つめてくる。


 ずるい……そんな顔されたら……。


「……わかった。行こう」


「本当ですか!?」


 由奈ちゃんの顔が、ぱあっと明るくなった。


「やった! 律先輩とデート! 楽しみです」


 由奈ちゃんが、嬉しそうに私の腕にしがみついてくる。


 この子、可愛すぎるよ。


「どこに行く?」


「んー、どこがいいですかね。ショッピングモール? それとも映画?」


「由奈ちゃんの行きたいところでいいよ」


「じゃあ……水族館がいいです!」


 水族館か。なんだかTHEデートスポットって感じだなぁ。


「わかった。じゃあ、水族館ね。集合場所とかは送っておくね」


「はい! 楽しみです!」


 デート。


 初めての、恋人とのデート。


 ちょっと……いやかなり恥ずかしいけど、楽しみだ。


ーーーーーーーー


【あとがき】


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


次は初のデート回です。


少しでも「面白そう!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、


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皆さまからの応援が、なによりのモチベーションとなります。


よろしくお願いいたします!


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