第33話 采配、つまり魔王軍。
団体戦をすることになった。
セドリック殿下の提案で。
「まけたほうは、かったほうのいいなりね♡」
「ふ、ふざけるな! そんな条件呑めるわけないだろ!」
「おやおやぁ? セドリックくんはぁ♡ じぶんのゆうりなルールでしょうぶをいどんでおいてまけるかもっておもってるんでちゅかぁ? なっさけな~い♡」
これでリリアちゃん、セドリック殿下のことは毛嫌いしていない。叩けばリアクションが返ってくるおもちゃぐらいの認識、つまりヴィルくんと同じ枠組み。
いまも「っ!」って言葉を詰まらせる殿下をつやつやしたお肌とにやにやした笑顔で満喫中だ。
「……ダメだ。その提案は呑めない」
ヴィルくんと違いがあるとすれば、セドリック殿下は引き際をわきまえている、ということだろうか。
勝算があって決闘を挑んできたのだろうが、無用なリスクを負うべきではない、勝負に出るべきはいまではない、と理性的に判断したともいえる、好意的に見れば。
「敗者は1週間出席禁止。そんなところでどうだ」
「ダメ♡ ひよってんの~? だっさ~♡」
さて。
いつの間にか会話の主導権をリリアちゃんが握っているわけだが、セドリック殿下が犯したミスは、リリアちゃんにケンカを売ったことにとどまらない。
「でしたら、こういうのはどうでしょう」
リリアちゃんの腹心、を自称する王女殿下、ユーフィリア・フォン・セイファート。
彼女がそばにいるタイミングでこんな話を持ち込んでしまったことである。
これは痛恨のミス。
セドリック殿下、ぎょっとした表情でユーフィリア殿下の顔を見ます。
いたのか!? と驚きの表情が張り付いています。
いました。最近、リリアちゃんの存在感の強さを利用して、自身の影を薄めるミスディレクションを獲得したユーフィリア殿下は話の一部始終を聞いていました。
ちなみに僕は目じゃなく耳で知覚できるから見失うことはない。
「負けた方はひと月の間、学園の清掃業務に従事する」
「む」
「これでしたら教員の皆様やご家族に心配をかける必要もなく、また後腐れなく決闘を完了できます。適切な落としどころだと思うのですがいかがでしょう」
セドリック殿下が口をわずかにとがらせている。
妹の方が建設的な提案をできたことに対する怒りだと、客観的に理解できた。
「構わん、貴様はどうだ」
「リリアはユフィちゃんがいうならそれがいいとおもうよ?」
教室から「おおっ」と感嘆の声が上がった。
――すごいぞユーフィリア殿下!
――魔王様の手綱を握ってる…‥!
――外付け頭脳。
――これが、魔王軍参謀の発言力!
――かっけぇ……!
クラスメイトからリリアちゃんへの偏見がすごい。
そして話題の中心であるユーフィリア殿下はニコニコした朗らかな笑みを崩すことがなく、他方セドリック殿下はいっそう悔しそうに歯噛みしている。
涙ぐましい人望格差だ。
「対戦種目はいかがいたしましょう」
「考えてきてある」
セドリック殿下の提案はこうだ。
・剣術
・槍術
・弓術
・障害競走(馬)
・魔法決闘
「承服いたしかねます。これはあまりにもそちらに有利です」
そうかな?
剣術に前回剣舞祭準優勝のアルテア・フォートライン先輩を置いて、リリアちゃんが何かで1勝、ユーフィリア殿下派閥の成績優秀者で残りを固めたら十分勝てそう。
「ですので、2種目、こちらが決定させていただきます。全体としてはそちらが多く決めているのです、問題ございませんね?」
「……聞くだけ聞いてやる」
なんでこの王子殿下は上からなんですかねぇ。
こっちは別に断れるってわかってないんですかねぇ。
さて。ユーフィリア殿下の修正案がこれ。
・剣術
・電気電子工学
・盤上遊戯
・障害競走(馬)
・魔法決闘
あっ。
「ふむ、電気電子工学に第一人者であるリリア・ペンデュラムを置き、他4種目で2勝をあげる作戦か」
セドリック殿下。誰もそんなこと言ってないぞ。
早合点はよした方がいいと忠告しておくよ。
「いいだろう」
「では、追って開催日時のすり合わせをいたしましょう」
「無論だ」
あーあ、忠告したのに(してない)。
おいおいおい、あいつ死んだわ。
◇ ◇ ◇
セドリック殿下は読み間違いをしたが、ユーフィリア殿下の人選を僕はなんとなく読めていた。
「選抜ですが、剣術はアルテア・フォートライン先輩に、盤上遊戯はフランツ・グランヴェール先輩に頼みましょう」
「おお! いいね!」
やると思った。
この二人、過去にリリアちゃんが土を付けた、その分野の超一流の天才たちだ。
アルテア先輩は先の剣舞祭で戦った。
運悪く逆シードから上がってきたリリアちゃんとぶつかったために初戦敗退だったが、前回大会は準優勝。当時の優勝者は卒業しているので、リリアちゃんを殿堂入りさせた環境では学園最強ということになる。
そしてフランツ先輩は、入学初日に馬車が壊れたリリアちゃんに相乗りを提案してくれた先輩。魔法師団参謀本部副官の息子。
後から聞いた話だと、軍部でも彼以上に軍略的センスを誇る人間はいないらしい。
つまり、リリアちゃんを殿堂入りさせた環境では学園最強ということになる。
2勝がかたい。
「でしたら、電気電子工学は私におまかせくださいませですわーっ!」
「ミストレスちゃん!」
ミストレス・ジャッカルボルト。
ジャッカルボルト商会商会長の息女の縦ロールさん。
電卓をはじめとする電子機器の製造販売にかかわってるいわば電子工芸品業界の最前線に立つ一族の長女で、リリアちゃんと同い年にして電気電子工学では一線級の学力を誇っている。
というのも、学習意欲がすごいからだ。
入学前からリリアちゃんの論文を読み込んできていたし、わからないことがあったら質問に来る積極性もある。
要は持ちうる才能全てを電気電子工学に一点投資した特化個体である。
副次的に数学も得意になってるけど、必要に応じて学んだ感じだ。
「ミストレスさんが参戦してくださるなら百人力ですね」
「おまかせくださいですわー! 必ずや勝利をリリアさまに献上してみせますわーっ」
彼女の自信は、他にもある。
通常、論文が学術誌に掲載されるときは、同じ分野の専門家が内容の正当性をチェックする決まりがある。
これがどういうことかというと、リリアちゃんが作成した論文の中に、世間には公表されていないが、正当性を検証中の話が無数に残っているということだ。
ミストレスさんには、その手の未公表の論文についても共有し、いち早く最前線の知識を得られるフィールドを用意している。
論文の検証をする専門家と同じ知識を得られる環境にある。
つまり、世に出ている分の知識で戦うのは絶望的と言うことだ。
まして魔法重視の価値観で、電気電子工学に反対の姿勢を見せているセドリック殿下派閥の人間ならなおさら。
「じゃああとは、リリアがまほうけっとうにでるか、ばじゅつにでるかだね♡」
「でしたら、ぜひ馬術をお試しいただけませんか? 魔法決闘につきましては、私の人脈に強力な助っ人がいますの」
「ユフィちゃんのなかま?」
「はい。自信をもって推挙できます」
ユーフィリア殿下がじっとリリアちゃんの目をのぞき込んでくる。
《おにーちゃん、どうする?》
(いいんじゃない?)
アルテア先輩とフランツ先輩、リリアちゃんで勝てば終わりだ。
ミストレスさんも負ける気がしないし、あとは埋め合わせでオーケー。
「うん、じゃあお願いね!」
「はい! この参謀、必ずや魔王様に勝利を捧げさせていただきますね」
うーん……これは魔王軍!
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