三上探偵事務所の事件簿〜小部屋の真実〜

――小部屋の真実[吸い込みと遮断]――


床板を剥がして現れた、深さ30cmの浅い空洞。

その底に鎮座する古びた壺は、俺たちに重く、沈黙した問いを突きつけていた。


村上は腰をかがめ、その壺を写真に収めながら、戸惑いを隠せない様子だった。

「どう考えても、これは非効率すぎる。これが単なる金品の隠し場所なら、わざわざ床下をくり抜き、しかも開閉口をこれほど厳重に封印する必要はない。しかし、これが何らかの儀式的なものだとしたら、なぜあの奇妙なサイズの小部屋と一体になっているんだ?」


村上の疑問はもっともだった。

壺そのものは空洞の真ん中に置かれた「物」に過ぎない。

その壺を囲むの存在こそが、この家の最大の謎だ。


再び頭の中で小部屋の設計寸法を想像する。


――縦横50cm×高さ1m50cm――


壺には触れず、小部屋を構成する壁を指で軽く叩いた。

「この空間は、物理的な目的を持たない。これは、設計者の強い観念を具現化した、象徴的な空間なんだ」


まず、縦横50cmというサイズ。

これは、大人が正常な姿勢で入れるサイズではない。

這うことも、座ることも困難だ。

つまり、この小部屋は人間の活動を拒否している。

物資の収納庫でも、拷問部屋などでもないことを示唆している。


次に、高さ1m50cmというサイズ。

これは、立っている大人の胸の高さに相当する。

しかし、縦横50cmという制限があるため、この高さは全く意味をなさない。

唯一この高さが意味を持つのは、何かが中に存在している、ということを示すシンボルとしての機能だ。




推理を組み立て、村上に伝えた。


「この小部屋は器として設計された。何を収める器か? それは、設計者が恐れた邪悪な何か、あるいは、代々家に取り憑くと信じられた災厄などの概念だ。この家を設計した人間、つまり最初の住人は、極度の不安や何らかの呪縛に囚われていた」

村上は顎に手を当てて、静かに聞いている。


「その人物は、最も無防備になる眠りの場所、寝室のすぐ隣に、自分の恐怖を隔離し、封じ込めるための装置を造った。それが、あの密閉された小部屋だ。この小部屋の機能は、吸い込みと遮断の二つにある」

探偵として身につけた推理力を活かし、分かりやすいよう、説明を続ける。


「一つ目に吸い込み。吸い込みは依代としての機能をもち、この家や住人に近づく災厄や邪気を、小部屋自体が持つ異常な閉鎖性によって引き寄せる。そして、床下に埋められたあの壺が、その邪気を吸い込む依代として機能する。壺の存在は、小部屋の機能の最終的な完成形を示している。」

「二つ目に遮断。遮断は結界としての機能をもつため、小部屋にはドアがない。これは、外部からアクセスできないだけでなく、内部のものも外部に出られない、という強い結界の意思を表している。邪気を完全に閉じ込め、寝室に眠る住人を守るための、一種の防護壁」


「ならなぜ、床下から壺を埋めた?手間のかかる床下でなく、壁の表面からでも良かったのでは?」

上村が話を遮るように尋ねる。


「いや、それではダメだ。この家が建つ土地そのものにその災厄を押し戻し、壺で蓋をすることで二度と表面に現れないようにする、鎮め物のような儀式だったのだ。この小部屋の床は、地面と直接繋がっている。これは、土地の力を利用した封印の儀式の一部だ」


村上は設計図に目を落とし、鉛筆で小部屋の区画をなぞった。

村上の顔には、建築の論理を超えた、人間の根源的な恐怖と信仰が具現化されたことへの驚きが浮かんでいた。

「この家は、単なる住居ではなく、設計者の狂信的な祈りが刻み込まれた、巨大な呪いの結界装置だったわけか...」

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