第7話 帰路
ソレは眠りと目覚めを繰り返していた。
ウトウトしてはハッと目を覚まし、ナカマが側にいることを確認してから離れないように蔓でグルグル巻きにする。そうしてまた眠りに落ちるのだ。
そうして暫く過ごしていたら、空気が変わったのが分かった。キョロキョロ辺りを見回しているとナカマに頭を撫でられた。
「分かるのか?デュオ・アムーレに入ったんだ」
よく分からなくて首を傾げれば、再び頭を撫でられた。
「俺たちの領域……あー、そうだな。家って言えば分かるか?」
白衣のニンゲンの研究所みたいなものか、とソレはコックリと頷いた。言われてみれば暖かいナニカが地面から湧き出てキラキラと輝いている。
キラキラはソレにもまとわり付いてきて、少しだけ体が楽になった。
「少し休憩するか」
地面に降ろされると、ソレは根を張って水と栄養を吸収する。今までになく濃厚な"力"に直ぐにお腹が一杯になりナカマの手に蔓を巻き合図を送る。
「もういいのか?」
ナカマが再びソレを抱え上げるとブチブチブチィっと豪快に根が切れる。地面に根を張ると上手く回収できないのだ。
「何回やっても慣れねぇな。本当に痛くないのか?」
痛みが何か分からないソレは毎回首を傾げることしかできない。
運ばれながら、ナカマにちゃんと蔓が巻き付けてあるか確認してから安心して目を閉じた。
小さな片翼は不思議な見た目をしていた。
今まで1度も風呂に入ったことがないのだろう。薄汚れて何色か分からない髪の毛の先端が、徐々に蔓へと変わり葉を繁らしている。まるでおとぎ話に出てくる森の妖精のようだ。
根は全身から出せるようで、地面に触れている皮膚から伸びている。
陽が差している間は根と日光から栄養補給しているのか、じっとして動かない。
アークバルトは服すら着せられていなかった片翼に、栄養補給の妨げにならないような袖のないワンピース――男の子だが――を用意させ、移動は夜間に行った。なるべく体に負担が掛からないように気を配ったのだ。
なにせ生きているのが不思議なぐらいやつれ果てているのだ。最初はミイラに見えたほど、と言えばその状態が理解できるだろうか。
片翼が栄養補給に励んでいるため日中のアークバルトは基本暇だ。そこで影から片翼に関する、ある研究員の日記を取り寄せ目を通すことにした。少しでも片翼に関する有益な情報があればいいと思ったのだが……
◯月△日
喪服の女から魔喰樹の魔核と適合者の情報をもらった。その上、適合者も向こうが用意してくれるという破格の待遇だ。
何か裏があるのではないかと思うが、こんなチャンスは2度とないだろう。
魔喰樹をコントロールできればこの大陸を支配することも夢ではない。メルプーレの連中を見返すチャンスだ。
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◯月△日
適合者の母体が到着した。今にも生まれそうだったので薬で抑えて儀式の準備を進める。
魔喰樹の毒素を母体へ、力を赤子へと融合して完全なる魔喰樹の復活を目指す予定だったが、直前に喪服の女が黒い魔核も融合するように言ってきた。
一体何の魔核だろう。凄まじい力を感じる。
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◯月△日
ついに儀式魔法陣を発動させた。喪服の女の言う通りに黒い魔核を使えば、嘘のように魔喰樹の力が母体へと馴染んだ。
まあ母体は黒いヘドロのように溶けたてしまったが、それは予想の範囲内だ。ヘドロの中からは無事に赤子が生まれた。
次から赤子は実験体と呼ぶことにする。
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◯月△日
肥料をたっぷり入れた土に実験体を置いてから10日、ついに実験体が目を開いた。信じられない!金色の目だ!もしかしたら金獅子の力の秘密にも迫れるかもしれない。
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◯月△日
実験体は様々な植物を吸収・再現することができるようだ。希少な月光草を与えたら何と次の日、髪の毛から生えてきた。
実験体は金のなる木だ。費用を気にせずに研究できる日が来るなんて素晴らしい!
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◯月△日
実験体の近くにいた研究員が捕食された。良い奴だったのに残念だ。
実験体は魔封じの檻に入れて食事を制限することにした。今は水だけ与えて様子見だ。上手くコントロールできればいいが。
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◯月△日
喪服の女から実験体をもっと成長させるように連絡があった。無茶だがやるしかない。喪服の女は叡智の党の最大のスポンサーだ。
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◯月△日
実験体を成長させるために水に高位の魔物の血を入れた。どうなるか分からない。上手くいくことを神に祈る。
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◯月△日
最悪だ!研究員の半数が喰われた。私の部屋は一番端だったから助かった。運が良かった。
喪服の女に連絡したら部屋自体に魔封じを施してくれた。一体どんな技術が使われているのか見当がつかない。一体何者なんだろう。
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◯月△日
実験体に水しか与えていないことが喪服の女にバレて援助を打ち切られたらしい。
魔喰樹を研究していると国に知られれば間違いなく殺されるし、新しいスポンサーを探すのも大変だ。研究員の人数も最初に比べて大分減ってしまった。これからどうなるのだろう。不安だ。
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◯月△日
実験体の金眼を抉り出したら金色の宝石になった。しかも魔法の伝導率が規格外だ!
売れば研究資金か稼げる。所長が売るつてがあると言ってたのでひと安心だ。
「クソが」
最後までページをめくり、これ以上有益な情報がないと分かるとアークバルトは日記をしまった。
胸糞の悪い日記だったが多少の役には立ちそうだ。
「魔獣の血か……」
片翼の側を離れて狩りに行くわけにはいかない。というかアークバルトと離れるのが嫌なのか、寝る前にはかならず蔓でグルグル巻きにされるので身動きが取れないのだ。そんな姿もいじらしく感じる。
アークバルトは爪を鋭利に伸ばすと自分の手のひらを傷つけた。
ポタポタと滴る己の血を眠る片翼の周りへとばら撒いていく。
「これで大きくなればいいんだが」
そうやってしばらく様子を見ていると、まだまだ痩せてはいるものの多少ふっくらとしてきた。食事の時間も短縮されて今では3時間程で満足するようだ。
おかげで進める距離も増え、もう少しでデュオ・アムーレに入る。そうすれば金獅子の加護が片翼にも降り注ぐだろう。
アークバルトは腕の中の片翼を抱え直すと家へ向かって歩みを進めた。
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