第3話 蘆屋 道満


「――ひゃ、百万の妖怪が、この東京を襲う……!」


 意識を失っている友人 黒河 伊佐美を保険室に寝かせたあと、子狸に事情を聞いて仰天した。


「はい。【 百万鬼夜行 】。それを防ぐためにあの2人は、この東京のどこかにいる術者と、妖界と常世を結ぶ、『冥界門』を探しているのです……」


「――最悪、この東京を吹き飛ばすとか言ってたけど。その冥界門から出てきた妖怪ごとってことか? そんなこと……」


「できます。 彼女達ならそれが可能です。 最強の破壊陰陽術を持つ、九尾の狐と人の間に生まれた半妖、『狐狗狸』様。 そして現代 最強の陰陽師、狐狗狸様の腹違いの弟、『血狐』様……。この2人なら可能です……」


「だ、誰なんだ、そんなバカなことをする奴は? いったい、なんの目的でこの東京を……?」


「――正確な目的はわかりませんが、妖術師連合【破虚】。古来より、あたしたち陰陽師連合【正極】と敵対してきた組織です。【破虚】の目的は、この世界の人間すべてを滅ぼして、妖術師だけの世界を創ること……」


「――っ!」


「この東京殲滅作戦も、その一旦だと思われます。さあ、話している時間はありません。続きは索敵しながらでもできます。あなたなら、この街の何処かにいる敵 妖術師と冥界門を探せるのでしょう?」


 期待する瞳に罪悪感を抱いた。


「お、オレには……そんなこと………ぐ あ っ !」


《 ――我が力を貸してやろう―― 》


 頭に痛みと声が流れ、意識が朦朧としていった。


「………こっちだ……」


 導かれるように車椅子を動かした。


 ◆


「――恐らく、この周辺だ……」


 2時間ほど移動し、東京タワーの前で車椅子を止めた。

 子狸 未来は巨大な鉄塔を見上げた。


「……こんなところに……。ですが、こんなあからさまな霊的スポットにいるとはとても思えません。狐狗狸様と血狐様も、いの一番に探している場所でしょうし……」


「……はあ、はあ……」


 息を荒くする無明に気づく。


「どうかしたんですか、苦しそうですが?」


「大丈夫だ……未来……。はぁ……。その冥界門を開けようとしている妖術師の情報を教えてくれないか……。何か見つける手掛かりになるかもしれない。どんなことでもいい……」


「……わかりました。偽りかもしれませんが、自らを死んだ父親の名を引き継いで『蘆屋 道満』と名乗っています。現代最強の妖術師で、死を司る妖術のスペシャリストです」


「妖術師には、異世界……いや、異空間みたいなモノは創れるのか?」


「はい、可能です。ですが、創り出した異空間の周辺までくれば ほとんどの場合 探知できるはずです」


「できない場合もあるのか……?」


「……あの姉弟からも探知できない異空間も、もしかしたら『蘆屋 道満』なら創れるかもしれません……。その場合は完全に終わりですが……」


 ――死を司る……。死の世界か……。


「聞いていいか? なぜ伊佐美は……ああ、さっき保険室で寝かせてきたオレの友人は、妖怪のことが見えていたんだ? 最初は見えていなかったのに、お腹を突き刺された瞬間 視認できていた……それってまさか……?」


「――たぶん、死に近づき『魂が活性化』したからだと思われます……」


 覚悟を決めて無名は、背中に背負っていた刀を手に取った。


「じゃあ……やるしかないか……」

 

「え? いったい何を……?」


 きょとんとする未来の前で、鞘から刀を引き抜き――自分の心臓に――ブ ス リと、突き刺した。


「 な あ あ あ あ あ あ あ あ ッ ! 」


 血反吐を吐きながら……。


「……死の世界に……そいつがいるなら……その入り口を見つけるなら……俺も死に近づかなきゃダメってことだ………げ ば ァッ!」


 胸から引き抜き、大量の血がこぼれ落ちる。


(――なっ、なんなのよ、こいつ……! 頭おかしいんじゃない……でも………)

「やばっ……かっこいい……」


 思わず口から漏れてしまった言葉に、はっと口元を押さえる。


「狸に惚れられてもな……ふふふっ」


 にが笑いする無明に憤怒する。


(……コロス……!)

 

 東京タワーの展望台を見上げ。


「――あった! あそこだ……! あそこから感じる――げほっ、がはっ!」


 胸を押さえて咳き込んだ。

 血溜まりになった水面に、苦痛にゆがむ顔が映り込む。


「動かないでください! いくら霊力で保護されているからといっても、このままじゃあなたが……!」


 ふらふらになりながら無名は、制服の胸ポケットから、お守りにしていた1枚の『葉っぱ』を手に取った。


「恐らく……なんとかなるさ……」


 震える指先で、母から教わった『草笛』を作った。


「……さっきの術は覚えている……」


 そして、口元に当ててメロディーを奏でる。


 ギコチない演奏と共に、おぼろげになった母の記憶が蘇る。


 ――無明。これは神樹と呼ばれる樹の葉です。持っていなさい。きっとあなたを守ってくれるから――


( ありがとう、母さん…… )


 悲しいメロディーと共に、貫かれた心臓が修復されていった。


 見習い陰陽師 未来はありえない光景に驚愕する。


( そ、そんなッ! 血狐様の『神笛 輪廻命々』を、草笛で再現するなんて……。このヒトいったい何者なの……? )

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る