第2話 神パンツ

 ――付喪神。物に宿る精霊。

 苺パンツの彼は、その付喪神なのだ。


 通常、長い年月をかけて付喪神になると言われているが、安奈 くりすの北海道の実家は、全国でも指折りの霊媒師の家系で、その中でも くりすは生まれつき飛び抜けた霊力を持っていた。


 本人にはまったく自覚はないが、それが周囲に影響し、子供の頃のくりすは、沢山の悪霊を周りの呼び寄せていた。


 その力を封印したのが、父 安奈 御宅。

 それ以来、くりすの周囲に、霊は現れることはなかった。

 だが、大きすぎる霊力は完全に封印することはできず、身体から汗が滲むように漏れ出していた。

 その汗のように滲み出た霊力は、履いていた苺パンツを最速で付喪神にしてしまった。


 ◆◆◆


「はあ、はあ、はあ……。み、道のりは、遠いぜぇ……」


 苺パンツの付喪神『いちご』は、マンションへの道のりを人間に見つからないようにコソコソと隠れながら歩いていた。


 わん わん! わん わん!


「 うおおッ! 」


 野良犬に見つかり、路地裏を追いかけ回された。


「 ぎゃああああああああッ! 」( オレはどうしても――どうしても――彼女の元に帰らないと行けないんだァァァッ! )


 いちごは素早く、犬の入れない隙間に入り込んだ。

 息を切らせ、犬が諦めて去るまで隙間に潜んだ。


 「お、思い出すぜぇ……。オレが初めてくりすと会ったの時のことを――――」


 ――――――――。


「あらあら、くりすちゃん。そのパンツが欲しいの?」


「うん、おばあちゃん。この苺パンツ可愛い♡」


 ――オレは売れ残りってヤツだった。

 テレビ番組で流行って沢山入荷しすぎて、流行が終わったら誰にも見向きもされず倉庫行き。

 数年間 放置されて、閉店セールで半額で売り出されていたのがオレだった。


 このまま誰にも買われず、また倉庫でずっと眠ったまま、いずれは処分されることを覚悟した。


 どうやらオレには付喪神になる才能があったらしく、付喪神になるには100年かかると言われているが、オレはたった数年で1割ほど付喪神化していた。だが、これが逆に辛い。動けず意識だけはある。拷問ってヤツだ。けれど不思議と死にたいとは気持ちは沸いてこなかった。


 これは付喪神としての特性なのだろう。

 物として生み出されたプライドというヤツなのだろう。


 誰かに履いてもらいたい。

 パンツとして作られた物の欲望。


 誰かッ――、誰かオレを履いてくれェェ―――ッ!


 心の奥底でオレは叫んだ。


「――っ!」


 少女がオレを見ている。


 じ――っと見ている。


 店の端っこの安売りのカゴに入れられた、最期の1枚になった苺パンツのオレを見ている。


「おばあちゃん、この苺パンツ買ってぇ♪」


 この時から、くりすはオレにとって『神』になった。

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