赤髪美少女に転生した俺(60歳)〜キャンプ中に美女が集まって世界も変えていた件〜

I∀

プロローグ

 ――太陽が海面を黄金色に染める中、船上はまるで楽園のようだった。


​ ジャグジーから上がった銀髪のエルフが、柔らかな光を浴びて水滴を輝かせる。獣耳を揺らす少女は、甲板の上を駆け回り、歓声を上げて笑う。青髪の魔導師は涼やかに読書にふけり、金髪の騎士はデッキチェアで陽光を浴びながら、とろけるような笑顔を見せている。


​ ――そして俺。

 いや、「今の俺の身体」は、その中に混じった赤髪の美少女だ。腰まで流れる炎のような赤髪、切れ長の瞳、すらりとした手足。どこからどうみても、人生の絶頂期にある10代後半から20代前半の娘だ。


​ だが、その頭の中身は、60年分の知識と、少しばかりの疲労感で満たされた「おっさん」のままだ。


​「……いやいや、なんで俺がこんなことに?」


 目の前の光景と自分の思考が、どうやっても噛み合わない。


「見渡せば異世界美女のフルコース。しかも全員水着。俺の手には酒とツマミ。ここは……天国かよ?」


 サングラス越しに眺める水平線はやけに平和で、現実感なんてまるでなかった。ビール片手にツマミを頬張りながら、俺はため息まじりに笑う。


​「まあ……人生二度目だ。たまには神様がくれた『遅すぎたバカンス』と思って、受け入れるとするか」


​ 思わず口元が緩んだ。

 60年の独身生活の果てに、こんな無駄に優雅な日々が待っていようとは、夢にも思わなかった。


​ この赤髪の若い身体は便利だし、何より俺には《キャンプ》のスキルがある。



 そう、全てはあの日――



 吹雪の冬山で、たった一人、焚き火の前で凍えながら酒を呑んでいた、あの夜から始まったのだ。

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