第20話:どっかで見た気が...

 中は意外と落ち着いていた。人々の気配があるのに、どこか静かで、空気は情報屋らしい緊張感に満ちている。カウンターには何人かの受付嬢がいるが、その中でもひときわ目立つ女性がいた。


 ――金髪。黒いリボン。整った横顔。


 アレクは目を細めた。

「……あれ、なんか見覚えあるような……」

「気のせいだろ。金髪なんてこの世界じゃ珍しくないし」

「いやでも……なんか、すごい既視感……」


 サクマが肩をすくめた横で、完全体ヴァリシアがこっそり囁く。

「アレク様。あの特徴、数日前に現れた女性の……」

「だよな!? 俺もそう思ったんだ!」


 三人でそわそわしながら近づくと、金髪の女性が優雅に会釈してきた。


「いらっしゃいませ。アンサーガールズへようこそ。ご用件をお伺いしますね」


 声まで同じだった。そっくり、というより、ほぼ本人だった。


 アレクは思わず言う。

「あの、もしかして数日前、森で――」

「はい? 森……ですか?」


 金髪女性はぽかんとした顔で首を傾げた。

本当にまったく覚えていない目だった。


「私、この街から離れたことはほとんどありませんので……。どなたかと勘違いされているのでは?」


 完全に「初対面のそれ」だった。


「……あ、そう……ですよね。気のせいです、はい」

「よくあることですから、気になさらないでくださいね」


 にっこりと笑う彼女。

 その笑い方までも、森で出会った女性とそっくりすぎた。


(いやいや絶対本人だろ!? じゃないとこの一致率おかしいだろ!!)

 アレクの心の叫びをよそに、女性は事務的に手元の書類を取り出した。


「周辺地域の情報をご希望でしょうか?」

「あっ、はい。できれば、街道の安全情報や危険区域、その……強い魔物の出没情報などを」

「かしこまりました」


 手慣れた所作で、彼女は地図を取り出し、ポイントを指し示していく。


「この西側の街道は現在巡回が強化されていますので安全です。ただし、北側の“ディラスの森”では、不明なエネルギー反応が複数確認されておりまして……近づかないことを推奨します」

「不明なエネルギー……なんか嫌な予感するな」

「たぶん俺たちのせいですよね?」とサクマ。

 アレクは否定できなかった。


 情報説明が続く。


「他にも、南の草原では近頃“光る存在”が落下したという目撃証言が……」

「落下?」

「はい。詳しくは……」


 女性の表情が不思議そうに曇る。


「妙なんです。目撃者の全員が“女性だった”と証言しているのですが、その特徴を尋ねると……なぜか皆、説明できなくなるんです」


 三人の背筋に電流が走る。


(これ絶対アイツだろ……!)


 しかし受付嬢はまったく心当たりがなさそうで、淡々と情報を渡すだけだった。


「とりあえず、王都周辺の安全情報としては以上になります。他にご質問は?」

「あ、いえ……大丈夫です」


 アレクは礼を言ってカウンターを離れた。

 完全体ヴァリシアは小声で呟く。


「アレク様……やはり、あの女性と酷似しています」

「完全に一致してたよな……なんで覚えてないんだ……?」


 サクマがぽんとアレクの肩を叩いた。

「まあ、謎は後にしよう。少なくとも敵じゃなさそうだし」

「……そうだけど……」


 アレクは最後にちらりと受付嬢を見る。


 そこには、柔らかく微笑む“ただの金髪受付嬢”がいるだけだった。


(……ほんとに別人……なのか?)


 答えは出ないまま、三人はギルドを後にした。


 王国に来て最初の困惑は、こうして静かに幕を閉じた。



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