女神は王都に舞い降りる

「わあ、なんか都会って感じ」


 コルヴム・パラディスの世界に舞い降りたあたしは、王都バンクラプトの景色を見て感心する。


 ルナリア姉さんからは治安が悪くなったと言われていたけど、あたしの降りた地点では周囲にお金を持ってそうな人たちの家が多く見える。


 目の前には石畳の広場が広がっていて、あちこちから馬車がガタガタと通り過ぎ、商人たちの呼び声が飛び交う。


 見上げる空にはハトの群れが飛んでいて、路地ではエルフの楽器店からハープの音が聞こえてくる。ドワーフの鍛冶屋から火花が散り、中央の噴水広場では、冒険者たちがギルドの掲示板を囲んでいる。


 ザ・大都会。何千年もぼっちとして生きてきたあたしは、大都会の放つ迫力に圧倒されている。


「やっぱり、人間の世界は新鮮ですか?」


 あたしの肩に乗った、使い魔のピョンちゃんが訊いてくる。ピョンちゃんのビジュアルは背中から小さな翼の生えたウサギで、人語を話すことが出来る。使い魔だけあってとっても賢い子なんだけど、ルナリア姉さんがあたし一人だと心配だからって付けた子守り役ってことらしい。


 出会った時は名前が無くて、「好きに呼んで下さい」っていうからピョンピョン跳ねるウサギからとってピョンちゃんと呼ぶことにした。「そんな韓国の地名みたいな呼び方はやめて下さい」って言われたけど、最初に好きに呼べって言ったのはピョンちゃんだからピョンちゃんと呼ぶことにした。サランヘヨ。


「うん。あたしってずっと一人だったからさ。誰か他の人が来ても、すぐに別の所へ移動しちゃうし」


 自分で言ってから、運命の女神って本当に孤独な立場だよねって思った。あたしと会って審査を受ける人たちは一人一人来るし、団体でワイワイとやりながらコルヴム・パラディスへと送り込むことはない。一気に何人もやると、異世界転生の平等な審査が出来ないからだ。もちろん、建て前上の話ではあるけど。


 そういうのもあって、あたしは人の群れにあんまり慣れていない。神様のくせに、人込みというやつを見てしまうと、田舎者みたいな反応をしてしまうところがある。


「まあ、すぐに慣れますよ」


 使い魔のピョンちゃんの方が、よっぽど都会に慣れている感じがした。彼(?)も色んな世界を渡り歩いてきたクチなんだろうか。


 王都バンクラプトに来たあたしは、女戦士とウィザードの中間みたいな身なりで魔法少女として冒険をすることにした。


 ブラウス風のトップスに赤いリボンタイ、フリルもたっぷりつけた全体的に白の衣装で、ベルトから下はフワフワしたスカートになっている。袖はパフスリーブといって膨らんだタイプで、パッと見でお姫様感もある。


 かわいらしい衣装に身を包めて、あたしは満足している。こんなカッコで冒険をするのが夢でもあった。


「ところでさ、落とし前をつけるって言っても、具体的には何をすればいいのかな?」


 あたしが本当はアウトな奴らを次々と送り込んだせいで、今ここの世界はえらいことになっているはずだった。でも、パッと見のどかな感じを見ていると、本当にそんなことあるの? って訊きたくなる。


 ピョンちゃんがフフンという顔で口角を上げる。


「方法は色々ありますよ。一番手っ取り早いのはギルドで悪党の討伐を受注することですね」

「ああ、みんな好きだよね。ギルド」


 ギルドって言うとやっぱり男の子の夢に当たる世界なのか、ワクワクしてしまう冒険者は多いみたい。まあ、あたしも魔法少女ではあるので、一般的な冒険者と比べたら比較にならないほどの魔法は使えるんだけど。


「とりあえずギルドに行ってさ、討伐の対象になるろくでなしの転生者たちを片っ端から皆殺しにしていけばいいってこと?」

「サラッと恐ろしいことを言わないで下さい。そうですね、とりあえずギルドに行けば話は聞けるんじゃないですか」


 ピョンちゃんにツッコまれながら、あたし達はギルドを目指すことにした。ルナリア姉さんも怒っていたし、自分の仕事をしっかりとやらなくちゃ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る