第7話 目覚めの声


「……瑞葉……

戻ってきて……!」


女のひとの声だった。

風のように優しく、でも必死で。


ぐいっと何かに引き寄せられる感覚とともに、視界が白く弾けた。


***


目を開けると、私は自分のベッドにいた。


(……今の声……セラフィア?

助けてくれた……?)


胸がまだ痛い。

森で感じたあの痛みと同じ。


***


放課後、歩道橋を歩いていると、空気がぴたりと止まる。


——すうっ。


耳の奥で、か細い泣き声がする。


『……みず……は……』


足元がぐにゃりと歪み、私は倒れそうになった。


(やだ……また引き込まれる……!)


その瞬間。


「瑞葉!!」



強い声が世界を引き戻した。


腕を掴まれ、現実へ引き上げられる。


「おい、大丈夫か!?」


見上げると、クラスメイトの 暁(あきら)がいた。


「……あきら……?」


息が上がっている。

本気で走ってきたみたいだった。


「顔真っ青だぞ……!

なんでこんなところでふらついてんだよ!」


怒ってるようで、でも必死で。

怖かった、みたいな声だった。


肩を押さえる手が、不思議なほど温かい。


胸の痛みが、少しだけ静まる。


(……この温かさ……

なんだろ……)


「あきら、ごめん……なんか、最近変で……」


言うと、あきらは視線をそらしながら小さくつぶやいた。


「……無理、すんなよ。

ほんと……見てらんねぇから。」


その声は震えていた。


そして——


「もしまた倒れそうだったら……

誰でもいい、近くのやつ捕まえろよ。

一人でいんな。」


霊とか声とか、そんな話じゃない。

ただの“心配”。

でも、それが胸に沁みた。


私は小さく笑った。


「うん……ありがとう、あきら。」


あきらはそっぽを向きながらも、耳まで真っ赤だった。


風が静かに吹き抜けた。


その風の中に——

ほんの一瞬だけ、女神の声が混ざった気がした。


『……瑞葉……まだ行ってはだめ……』

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