第4話 歪んだ森の真実

セラフィアに導かれ、私はさらに森の奥へと足を進めていった。


空気が重い。

風も光も、どこか鈍く濁っているように感じた。


「ねぇ……この森、ずっとこんな感じなの?」


私の問いに、セラフィアは静かに首を振る。


「いいえ。

本来、この森は“風”と“水”が調和する、美しい場所でした。

しかし今は……世界の歪みが、この森に最初に現れているのです」


歪み。

その言葉が胸の奥にざらりと引っかかった。


しばらく歩くと、林の中に奇妙な生き物がいた。


——鳥のようで鳥じゃない。

——羽が片側だけ黒く、もう片側だけ白い。

——目は濁り、まるで何かに怯えているようだった。


「ひっ……!」


私が身をすくめると、セラフィアがそっと手を伸ばした。


「恐れなくていい。この子も、“被害者”なのです」


その“被害者”という言葉に胸がざわつく。


「被害者って……誰に?」


私の問いに、セラフィアは答えなかった。

けれど、その沈黙が何よりも重かった。


***


さらに奥へ進むと、地面がかすかに脈打つように揺れていた。


「……地震……?」


「違います。

大地そのものが“声”をあげているのです。

あなたにも、感じ取れるでしょう?」


言われるまでもなく、胸の奥が痛かった。

締めつけられるような苦しさと、どこか泣き声のような震え。


(……なに、これ……どこかで……感じたことある……)


「瑞葉。」


セラフィアが、ふいに名を呼んだ。

その声は優しいのに、どこか切なさが混じっている。


「あなたが今感じている痛みは……“世界の声”です。

それは、あなたが生まれつき持っている力。

そして——“あなたの魂”に深く結びついたもの」


「……魂……?」


胸の奥がズキッと痛んだ。

まるで誰かが私の心臓を握りしめたような。


(なんで……痛い……?)


「無理に思い出そうとしなくていいわ。

今のあなたには、まだ早い」


セラフィアはそう言って、そっと私の肩に手を添えた。

その手は温かいはずなのに、どこか震えている気がした。


「でも、覚えておきなさい。

あなたの魂は、一度“砕けている”のです」


「——え?」


あまりにも唐突な言葉に、呼吸が止まった。


砕けている?

魂が?


「どういう、こと……?」


問いかけても、セラフィアは答えなかった。


ただ、風のような声で静かに告げた。


「いずれ必ず思い出します。

あなたが“何を失い”、

そして“何を取り戻さなければならないのか”を」


胸の奥で、

水面がひび割れるような痛みが走った。


「……っ……!」


思わず胸元を押さえると、視界の端で何かが揺らめいた。


暗い影。

黒い“なにか”が、森の奥へとすうっと沈んでいく。


「今の……なに……?」


問いかける私に、セラフィアはただ、遠くを見るように目を細めた。


「——それが、“歪みの核”。

あなたと……深く結びついた影。」


その言葉の意味を、私はまだ知らない。


でも——

胸の奥の痛みだけが、静かに答えを示していた。


“あれ”を知れば、もう後戻りできない。


私は知らぬうちに震えていた。


それでも、セラフィアの背中は前へ歩み続ける。


そして私も、その背中を追うように一歩を踏み出した。


世界の真実に、静かに近づいているとも知らずに。

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