Resonance-共鳴-
月影ゆう
第1章 ─波紋のはじまり─
第1話 水に触れた日々①
幼い頃、私はよく地面にしゃがみ込んで“世界の小さな息づかい”を眺めていた。
それがただの癖なのか、それとも——生まれつき備わっていた何かなのか、その時の私はまだ知らない。
その日も、公園の隅にできた浅い水溜まりをのぞき込んでいた。
光を反射する水面は、まるで小さな鏡みたいで、覗き込むだけで胸が静かになった。
ふと、水の中でもがく一匹の蟻が目に入った。
「……だいじょうぶ……?」
手を伸ばしかけた瞬間、世界が——裏返った。
視界が暗く、低く、重くなる。
水音が頭の中で反響し、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
足がつかない。
息もできない。
全身をざらついた恐怖が飲み込んでいく。
(こわい……たすけて……)
それが“私の声”じゃないことはすぐにわかった。
もっと小さくて、もっと必死で、消え入りそうな叫び。
——あ、これ、蟻の……
気づいた瞬間、視界がスッと元に戻った。
私は膝をついたまま、震える指で水に手を入れ、蟻をすくいあげて地面にそっと置いた。
「もう、大丈夫だよ……」
心臓がドクドクとうるさくて、うまく息が出来ない。
でも、手のひらの上で蟻がゆっくり動きはじめたのを見て、胸の奥でなにかがほどけていく。
あの時感じた“恐怖”と“叫び”は、空想でも錯覚でもないと、私は本能で理解した。
——私は、誰かの「声」を感じとってしまう。
その秘密を胸にしまいこんだまま、私は成長していく。
けれどこの体験が、後に私を“あの世界”へ導く鍵になるなんて——まだ知る由もなかった。
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