第3話 いずれ父となる男との『つながり』
ひとまず計画は練った。
拠点としていた近くの『エルリッド自治区』に
そこで青天井の金貨と交換するまでは、俺はこの二人の味方で居てやれる。
だが当の二人はきっと、俺をまだ警戒している。立場が逆なら俺だって警戒していたに違いない。
『信頼』を得なければな。
「うっ……」
「お姉ちゃん!?」
突然トピの足が崩れる。寄り添うスイに、それでも手で庇う。手足の震えや冷や汗――経験上飢餓による体力ダウンだと思われる。
……まさか妹に食わすため、自分は飯を抜いてたのか。
たった一人の家族、か。大丈夫、売っても暫くは引き裂かれないだろう。二人一緒に連れて行くんだからな。
だが飢餓で動けなくなってもらっても困る。だからなけなしでのパンを二人に差し出す。
「とりあえず二人とも、これでも食っとけ」
困惑しながら毒が無いかじっと疑うこと十数秒、それでもパンを齧った。
「……!」
齧る。
再度齧る。
何度も何度も齧る。
「おい、しい」
薄いパン一つで満たされ、歯止めが効かない。これが贅沢品に見えるような地獄は流石に想像がつかない。
まあ、腹が満ちりゃ動きやすい。最後の食糧だし残しておきたかったけど、今は二人をエルリッド自治区まで連れて行く方が先決だ。
あと半日あれば街に辿り着く。飯はその時盗めばいい。
食え。いっぱい食え。よかったな。
「……違う。違う」
駄目だ。情を出すな。
そう自分を戒め、見つけた襤褸布を二人にかける。
「今日は寒いだろうがこれで我慢して寝てくれや」
と二人に睡眠を促すが、俺は眠る気はない。寝ている間に屋敷に帰られたら全てパーだからな。
起きていなきゃ。
二人を見てい――なきゃ。
二人を――ちゃんと――看て――
【トピSIDE】
あの暗い部屋では、ドアノブの回転が怖かった。
それ即ち『実験』あるいは『見世物』の始まりだったからだ。
魔法陣で吐瀉物を無理矢理引き出された。
魔術で喉が絞まり息が出来なくなった。
皮膚に直接埋め込まれた魔術物質で死んだ方がマシな激痛に悶えた。
笑われた。だから泣いた。すると寧ろエスカレートした。
気付けば涙さえ枯れていた。
……そんな地獄で妹を守ることだけが、トピに残された唯一の生き甲斐だった。
「お姉ちゃん。あの、嘘をつくとダメって、父上言ってたよ。魔族の呪いが広がっちゃうって……」
ブルーの寝息を眺めていると、隣でくっついているスイが物憂げな目線で迫ってくる。それが癪に障り、少し乱暴に両肩を掴む。
「あんなのリボルが私達を虐める為の方便だよ。いい加減目を覚まして!」
「ご、ごめん、お姉ちゃん……でも明日は父上いないから……死んじゃうくらいに痛い実験、されないのに、嘘ついたから」
「いい? これはチャンスなの。あの男から逃げるチャンスなの」
と最大限ブルーの寝息に気を使いながら、声を殺してスイに訴えかける。
「ブルーが何を考えてるかは分からないけど、人間だもん。どこかで裏切るに決まってる。なら私たちだって利用してやる。利用するだけ利用して、遠くまで逃げる」
利用して逃げて――その先の事は考えていない。とにかく遠くへいけば、いつかは天敵のいないエデンに辿り着ける。妹の悲しむ顔を見なくて済む。
そんな無我夢中のトピとは対称的に、スイはどこか興味深そうにブルーの寝顔を見つめる。
「きっとこの人、私たちに痛くしないと思う」
「何言ってるの」
「だって、さっき食べたパン、すごい美味しかった。あんなの初めて……」
「……っ」
無防備な寝顔に引っ張られそうになった。幾ら口では警戒していても、あのパンの味が忘れられない。
「でもこの人間も今はいい顔をしているだけ。私達を裏切る筈……っ!」
必死に否定していると、途端に ぐぅ、と腹の成る音がした。
「え?」
トピもスイもパンを十分に食べた。二人のものではない。
ブルーから発せられた空腹のサイン。
「まさかこの人……」
双子姉妹は顔を見合わせ、同じ結論に行きつく。
このブルーという男、昨日から何も食べてない。
「自分がお腹空いてるのに、どうして……!?」
隣でスイも困惑していた。けれど同時にどこか安心しきっていた。妹のこんな顔、初めて見た。
ブルーがさらにくしゃみをする。
寒いのだろうか。
なのにどうして自分達に布を与えたのか。
「うわっ」
「わわっ!」
三人が同時に発光する。
途端、双子とブルーの間に『線』が出来た。
触れる事はできない。弱くて細い。
けれど暗黒の古びた廃屋を優しく照らす道が優しく灯る。
「お姉ちゃん、これもしかして『つながり』じゃ……」
リボル曰く魔族と人間の違いは、必ず2つのスキルを先天的に有する点にある。
うち一つが『つながり』――他者と魔力を共有し、融合するスキル。
混ざり合いシナジーを産んだ魔力は、やがては『厄災』と恐怖されるほどの極大魔術へと繋がる。
条件の一つが『家族と呼べるほど心的に近い距離にいる』こと。
故にトピとスイは物心ついた時から強い『つながり』で繋がっている。
ただし魔力を共有できる先は同じ魔族だけに限らない。
理論上は家族ならば人間とも共有が出来る。
魔族が発信側で人間が受信側という、一方的な搾取の関係になるのはさておいて。
「うそ、ありえない……だってあのリボルが10年も研究してようやく無理矢理繋いだ代物だよ!?」
10年。
リボルが実験成功の歓喜と共に漏らした時間だ。
トピとスイに
たった数時間。
血も繋がらぬブルーと二人が出会ってから経過した時間だ。
なのに―『つながり』のトライアングルは悠然とそこにある。
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