日本国がファンタジー国家と戦争するだけの話(仮称)

広瀬妟子

プロローグ

 三上曜一みかみ よういちは狭い装甲車の中で呟いた。


「どうしてこうなってしまったんだ?」


 その、不意に漏れ出た呟きに対して答えられる者はいない。答えを知らないからだけではない。三上が思わず口に出した疑問は、この装甲車の中で身を寄せ合う六名の隊員たちと、三名の装甲車乗員たちも内心で抱えているものだった。


 彼ら、陸上自衛隊第三一普通科連隊に属する自衛隊員たちは、普段の任務では非装甲の高機動車を用いて移動する。四方を海に囲まれ、海上貿易による繁栄を妨げる敵に抗うための方策として海上自衛隊と航空自衛隊に優先的に血税を投じているがゆえに調達が容易く、整備に関しても手間の少ない車を重んじているからのものであったが、今回ばかりは状況が大きく異なっていた。


「それにしても、わざわざ試作品に乗せるなんて…装甲車なら他にもある筈だろう?」


 ここに来てようやく、三上以外の隊員が呟く。それに対して回答したのは分隊長を務める陸曹長であった。


「今のところ、直ぐに回せる車両が殆どなかったんだ。そもそも俺たちは海自と空自がボロ負けした後の備えとされてたし、その時に戦場になるのは北海道か九州辺りとされてたからな。お陰で富士教導団の連中は大騒ぎだ」


 分隊長曰く、昨今の脅威である無人航空機を迎え撃つために開発された新型装備を試験的に運用する装甲車を数両、相模原市にある企業の倉庫から引っ張り出したのだという。それでも足りない分は富士教導団の保有している車両を回したというが、それだけ現場にとって信じがたい状況に陥った結果なのだろう。


 それから暫く経って、外から轟音と幾つもの爆発音が聞こえてくる。太鼓を強く叩いた様な音が連続して響き、三上は改めて今、自分たちは戦場へ向かっているのだと認識する。


 やがて装甲車は停車し、分隊長が最初に立ち上がる。そして次々と車両後部のドアから外へ走り出す中、三上も八八式鉄帽ヘルメットを深く被り直し、二〇式小銃を手に外へ躍り出た。


 彼を含めて七人の陸上自衛隊員は、装甲車の周囲を固めながら前へ歩み出し、三上も未だに見ぬ敵との相対に備える。


 それから数分は経ったか。視界の中に敵集団を収め、三上たちの表情が強張る。そして三上自身も二〇式小銃を構え直し、前へと歩み出した。

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