第23話 何というあっけない幕切れ
覚悟して手に力を入れようとした瞬間、突然腕に痛みが走った。
腕に目を落とすと、小さな切り傷が出来ている。
後ろを振り返るとそこには、甲冑男に殴られて腫れあがった顔の笠原くんがいた。
そのブルブルと震える手には【聖女殺しの剣】が握られている。
「この剣で刺せば、桜田さんは聖女じゃなくなるんだよね? そうしたら、異世界に帰らされることはないから僕の物になるんだよね?」
神は……女神様は私を見捨ててなかった!
キモ2ナイス!
私は足を振り上げ、渾身の一撃を笠原くんのお腹におみまいした。
おにぃ直伝、痴漢撃退用のミドルキックだ。
「ぐふっ!」
ひょろひょろの笠原くんは、もんどりをうって吹っ飛び、その手から【聖女殺しの剣】が落ちる。
私は首に当てていた剣を放りだし、すばやくそれを拾った。
「あんたたちの思い通りになんてさせない!」
私は地面に左手を置き、その甲に、聖痕に、【聖女殺しの剣】を突き刺した。
パシュ!
何かがはじけるような音がして、剣が激しく光り輝く。
あまりの眩しさに目をつむるが、それは一瞬で…
「いたぁあああい!」
途端にドクドクと、まるで心臓が脈打つような強烈な痛みが襲ってきた。
だが、手の甲の傷口から血が噴き出すだけで、あの赤いアザはすっかり消えている。
「あああああ! なんて事を! なんて愚かなことをするんだ! このクソ女! 聖女だからお前には価値があったのに! 聖女のお前を妻にしなければ庶子の私が王になることを信者が認めんだろうが! このバカ者が!」
狂ったように黄金男がその黄金の髪をかきむしる。
「許さん! 許さんぞ…」
血走った目が私をとらえ、じりじりと近づいてくる。
「…いいん…ですか…こんなところ……いて」
そこでおにぃがかすれた声で、黄金男に声をかけた。
「聖痕は……次の継承者に…移りました……よ?」
「なに!? その【聖女殺しの剣】で聖痕を消滅させたら、聖女はいなくなるのではないのか?」
「いえ…【聖女殺しの剣】はその名の通り、本人を生かしたまま……『聖女が死んだこと』にするのです……だから聖痕は……次代に継承されます」
ドカドカと黄金男は近づき、おにぃの髪を鷲づかみにして問いただす。
「先の内乱で経典は全て灰になった。聖女継承の記録も全て失っている。何故お前がそんな事を知っているんだ!」
「……私は姫君の母上、聖女様の下男を……していたのですよ? ……神殿の全ての書物を読んで……います」
「…次の継承者とは誰だ?」
「…姫様の次に……聖女の…王家の血が濃い…未婚の女性は誰ですか?」
「…次は――次は――モントルー伯爵に降嫁した叔母の娘…ナーディアだろうか」
「では……その方でしょう…その方には…すぐに求婚者が殺到するでしょうね…いいん…ですか? 出遅れて…」
黄金男の甲冑が、ガチャリと大きな音をたてた。
「くそ! おい戻るぞ!」
そう言い、甲冑男たちを引き連れてあっと言う間に消えてしまった。
本当にアッサリと……
みんな異世界に帰ってしまった。
思わずぽかんとしてしまう。
「アリー……」
おにぃに声を掛けられ、正気に戻る。
「おにぃ!」
駆け寄っておにぃにすがる。
「ズボ…ン、ポケ…」
そう言われておにぃのズボンのポケットを探ると四角い固いものがある。
「で…でん…」
おにぃの言いたいことは分かった。
すぐにスマホを取り出し、最新の通話履歴にある『黒』に電話をかけた。
「助けて下さい! おにぃがまた撃たれて……お願い、助けて! 助けて! おにぃが死んじゃう!」
涙と鼻水を垂らしながら、大声で必死に叫んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます