第22話 だったら私も一緒に逝こう
おにぃが落とした剣を地面から拾い、自分の首に当ててやる。
「おにぃを置いて異世界になんか行かない! そんな事するくらいなら死んでやる!」
「はぁ~なんて我が侭な子なんだ。そんなものもって野蛮極まりないな。は~~良いだろう、有難い聖女様のご要望だ。その奴隷も連れて帰ってやろう。おい、ブレスレットは人数分しかないから、お前はここに残れ」
「え!?」
呼ばれたひとりの甲冑男が顔面蒼白になる。
「しかし、そいつはこっちに帰ったところで、奴隷に戻るだけだぞ? そんな汚い髪色をした頑丈だけが取り柄の最下層の奴隷なぞ、お前の側には――王宮には入れられないからな」
「なっ!」
「アレクサンドラを守った功績で、身分を上げてやりたいがその髪色ではな……お前は知らぬだろうが、こちらでは暗い髪色の者は『人間』とは認められておらん。生まれながらの最下層の奴隷など、王宮の下働きにも出来ん。……と、お前は分かっておるだろう? 奴隷男よ」
黄金男がおにぃを見つめると、おにぃは目を反らした。
「本来ならば、私のような王族の前に出ることも、目を合わす事も許されぬ身なのだ。今までアレクサンドラの側にいれたことを一生の誉と思い感謝すべきである」
そう言いながら、黄金男やその他の甲冑男たちは、誇らしげに顎を引き上げる。
皆の髪は朝日を受けキラキラと輝き美しいが、その傲慢な態度に、国民みな平等な日本で育った私の価値観では、怒りしか感じない!
小さな頃、施設でおにぃに初めて髪を茶色に染めてもらったことを思い出す。おにぃと同じに色になったことが嬉しくて堪らなくて……
そう、ついこの前だって染めてくれた。
優しく丁寧に櫛梳るおにぃの手の感触を思い出して涙が出てきた。
茶髪が奴隷の世界線、なんじゃそら!
茶髪好きなオシャレ日本人の私は認めないぞ!
「それに、聞くところによればお前はその奴隷男に懸想していたらしいな」
黄金男の目が笠原くんをとらえる。
「ならば、なおさら側には置けんな。お前は私の花嫁となるのに」
「は!?……私たち兄妹よね?」
あんたその口で実の兄って言ってたよね? 異世界って古代エジプトみたいに近親婚OKなとこなの?
「腹違いではあるが、確かに血はつながっておる。私との結婚はタブーではあるが、私以外の王族は先の内乱でみな死んでしまった。だから血統を守るためにはお前と子を作らねばならん。」
「きっ!」
「?」
「気持ち悪っ!」
胡散臭い上に、無礼なナルシストとなんて鳥肌たつわ!
「なっ、何を言う!そこの奴隷と兄妹だと思ってたくせに、懸想していたのはお前の方だろう!」
くっ!
そうだ……気持ち悪い、変態は私の方だった!
でも、こいつとなんて絶対無理!
子どもを持つなら……
「お前がその奴隷の子を産むなど……茶髪の赤ん坊を産むなどありえん! 虫唾が走るわ! 次代の聖女は金髪でなくてはならん! それには黄金の髪を持つ高貴な私の血がよかろう? 聖女の存在理由は次代に続く黄金の聖女を産んで、女神の恩恵で永遠に国を豊かにする事、それだけだ! 使命をはき違えるな!」
「話しが違うじゃありませんか!」
そこで笠原くんの声が突然割り込んできた。
「桜田さんを聖女かどうか確かめて、行方不明になったら探し出して貴方に会わせたら、桜田さんを僕にくれるって言ったじゃないか! だから僕は一生懸命に頑張ったのに!」
あ~お前もキモ2号だったか。
『くれる』って……私はお断りだよっ!
「低能な異世界人を黙らせろ!」
「はっ!」
バキッ!
甲冑男に殴られた笠原くんはコロコロと転がり、そのままシェルターの穴に落ちてしまった。
「さぁ妹よ、そろそろ帰るぞ! 剣を下ろせ。どうせ脅しで死ぬ気はないんだろう?」
「は!? あんたの嫁になるくらいなら死んだほうがマシ! 本気だから!」
剣を首筋に当てるとピリリと痛みが走った。
私を取り押さえようとした甲冑男たちがひるんで動きを止める。
「や…めろアリー…」
地面に這いつくばるおにぃが、私の足をつかんで止めようとしてくる。
私を一人で異世界に行かせようとした、おにぃの言うことなんて聞かない!
「私はおにぃから離れないもん! ずーっとずーっとおばあちゃんになるまで側にいるんだから……だって大好きなんだもん!」
ボロボロと涙がこぼれる。
追手の死体が消えたのと同時におにぃの肩に突き刺さった剣も消えている。
そこから大量の血が流れ出し、おにぃの顔色は血の気を失って真っ白だ。
唇も紫色で、身体はガタガタと震えている。
おにぃはもうダメかもしれない……
だったら私も、一緒に逝こう。
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