第10話 生涯をかけてお守りいたします【SIDEジーン】

 そのまま王宮に隣接する神殿に連れていかれた。頭の先から足の爪の先まで何度も洗われ、伸ばし放題だった髪も切りそろえられ、生まれて初めてシミや破れのない綺麗な服を着せられた。


「あら、綺麗な顔をしていたのね」

 俺を拾った黄金の髪の女性……聖女は愉快そうに笑った。


 聖女とは女神ヴィーナの豊穣の力の行き渡らせる代理人で、彼女がいるからこの国は災害がなく豊かなのだと教えられた。

 そのため、聖女は国民の尊敬を一身に集め、神のごとくあがめられる存在らしい。


 代々聖女はこの国の王族から生まれ、その証に身体のどこかに神花のアザ…聖痕をもっているそうだ。

 当代の彼女も元お姫様だそうだ。


「手足が長いからきちんと食事をさせれば、この子は大柄になりますよ。護衛に育ててはいかがです?」

 聖女に仕える神職者の女性のひとりが、俺の身なりを整えながら言った。


「いいわね。貴方この子の護衛騎士になる?」

 聖女は膨らみのないお腹を撫でながら言った。


「この子は次代の聖女になる子なの。きちんと教育をしてあげるから頑張ってみる? 護衛騎士になれたら、一代限りだけれど騎士爵……貴族の称号を与えられるわよ」


「貴族…俺が……?」


「ものすごーく頑張ったらね? 頑張ってみる?」


「うん…はい」


 そこに別の神職者が割って入ってきた。


「何を仰っているんですか聖下! こんな汚い髪と瞳の色なんて……ひと目で最下層民と分かる者を護衛騎士になんて! 信者たちに笑われますよ!」


 ここには俺みたいな茶髪の人間はいない。みんな金や銀の薄い髪色の人間ばかりだ。

 そういえば、奴隷に金髪のヤツは一人もいなかった。


「馬鹿らしい。髪色で差別するなんて時代錯誤もいいところ。そういうのを覆すためにも頑張って護衛騎士になってもらいたいわ。でもここはそんな差別がまかり通る場所だから、きっと貴方は苦労するでしょうね。それでも頑張ってみる?」


 ゴミを漁り、泥水をすすってきた俺がこんなをチャンス逃す訳がない! 蔑まれるのも暴力を振るわれるのも慣れている。農場では少しでも自分の待遇を良くしようと奴隷同士で足の引っ張り合いをしていた。人間の汚さ、残酷さだって身に染みている。


「はい」


 その日から全く新しい生活が始まった。

 労働は神職者たちの靴を磨いたり、配膳の手伝いをする程度で、ほとんどの時間は学習と武術の習得に費やすようになった。必死に文字を覚え、神殿での作法を覚え、寝る間も惜しんで体術、剣術の訓練を続けた。案の定、神殿で働く神職者や信者からはたくさんの嫌がらせや暴言を受けたが、所詮育ちの良い人間のやる事だ、大した事はない。そんな事より自分を高めることに必死だった。ただ食うだけのために生きてきた俺に初めて人生の目標がうまれたのだから。

 神殿の図書館の本も片っ端から読み漁り、ヴィーナ女神の事を書かれた書物、経典などを頭に詰め込み、神職者と変わらない知識を得ることもできた。


 そうして8か月後、国を挙げての慶事に興奮冷めやらぬ夜、聖女様の枕元に呼ばれた。


「この子はアレクサンドラ、貴方が守る次代の聖女よ」


 聖女様の胸には、黄金色の髪の夢のように美しい、赤ん坊が抱かれていた。


 俺はひざまずき誓った。


「この命は貴女様のもの。生涯をかけてお守りいたします。アレクサンドラ次期聖下」

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