第4話 わ~暖かい~いい匂いがする~~肌がすべすべ……

 ガタン!


 自室でダラダラしていると、玄関の開錠の音のあと、大きな物音が廊下から聞こえてきた。


「おにぃ?」

 おにぃが帰ってきたのかと恐る恐る廊下に出ると、そこには壁にもたれ掛かるおにぃの姿があった。


「おにぃ!」

 電気をつけて走り寄ると、その服は所々破け血が滲み、こぶしも血まみれだった。


「まだ起きてたのか」


「何? どうしてこんなケガ…」


「……」


「喧嘩でもしたの?」


「……あぁそう…けんか……喧嘩だ」


「うそ! おにぃプロなんだよ? 喧嘩なんかしちゃ、資格がはく奪されちゃうじゃん!」


「……それは大丈夫だ。問題ない」


「でも……」


「大丈夫だ」

 そう言いながら、おにぃはバスルームに入って行った。


 心配でお風呂から上がってくるまで、救急箱を抱えておにぃの部屋で待つことにした。

 程なくして、髪を拭きながら上半身裸のおにぃが入ってきた。


 下半身はしっかりズボンを履いているが、上半身は何も身に着けていない。

 まるで彫刻のように綺麗な身体……見事なシックスパック!


 直視できなくて、目を反らしながら声を出すが、ついついぶっきらぼうになってしまう。


「手当するから、ベッドに座って!」


 私は変態じゃない!

 私は変態じゃない!

 そう呪文を心の中で唱えながら、消毒を始める。


「もうすぐ30にもなるのに喧嘩なんて……!」


「まだ28だ」


「まだね…ってこれ…」

 傷は刃物傷だった。

 かすったのか浅い傷が複数ある。


「相手、刃物持ってたの!?」

 かすっただけで良かったものの、もし刺されていたら……一気に血の気が引いた。


「け…警察呼ばなきゃ…!」


「別にいい」


「だって刺されでもしてたら、大変な事になってたんだよ!」

 想像したら心臓がバクバクして、身体が震えてきた。


「俺を誰だと思ってんの? HUZIN王者ジーン・桜田だぜ。やられる訳ないだろ」


「そんなこと……!」


 どうして凶器を持った相手に、やられる訳ないなんて言いきれるの!

 絶対大丈夫なんて、そんな保障どこにあるの!


 もし、もし、おにぃに何かあったら……!


 ガクガクと身体を震わせながら泣き出す私を、おにぃが抱きしめてきた。



 もう一度言う、抱きしめてきた。



 しかも上半身裸で――――!



「ごめん、ごめん。心配かけたな」


 心臓が爆発するかと思った。

 血の気の引いた顔が、瞬く間に紅潮する。


 わ~暖かい~いい匂いがする~~肌がすべすべ……



 いかん!

 また変態を発動してしまった!


 バッと飛びのき、薬箱を漁るふりをする。


「ばっ、絆創膏。大きいのがないね」


「傷は浅いから消毒だけでいいよ。もう血も止まったみたいだし。サンキュ、後は自分でするから」


「自分で? まだ他に傷があるの? 見せて!」


「……」


「見せて!」


 おにぃはゆっくりと立ち上がり、ズボンを引き下ろす。

 グレーのスウェットのズボン……


「太もものここなんだけど」


 悲鳴を上げなかったのをどうか褒めてくだサイ。


 私は変態じゃない!

 私は変態じゃない!

 震える手で消毒をして、そそくさと部屋から逃げ出した。


 あぁこの前、私がたたんで引出しにしまった紺のブリーフをはいてたなんて、絶対見てませんとも!


「可愛いヤツ」

 そんな姿を見てニヤニヤとおにぃが笑っていたなんて、私は知る由もなかった。

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