第3話 嬉しくて、愛おしくて、……そして悲しい
「あれ、電池替えたのに動かない」
自室で宿題の調べものをノーパソでしていたら、ワイヤレスマウスの調子が悪い。
「ん~~借りるか」
おにぃの部屋に向かう。
今日、おにぃはトレーニングでジムに出かけている。
「おじゃましま~す」
おにぃの部屋は、モノトーンでまとめられたシンプルな部屋で、物がすごく少ない。
「ミニマリストか」
服やぬいぐるみで、ごちゃごちゃした私の部屋と大違いだ。
寝具もモノトーンなセミダブルのベッド。
大柄なおにぃの足は、はみ出しているんじゃなかろうか。。
「ついでにおじゃましま~す」
ごろんとおにぃのベッドに寝転がる。
「はぁぁぁ~おにぃの匂いだ」
おにぃのつけてる、ウッディノートなトワレの匂いを堪能する。
「は~~ホントもう変態」
小さい頃はいつも抱き着いて、この匂いをかいでいた。
この匂いがあると安心できた。
でも自分の気持ちに気が付いてからは、抱き着くことはできなくなった。
今ではこの匂いを嗅ぐと嬉しくて、愛おしくて、……そして悲しい。
「もう物理的に離れなきゃ、変態は治らんわ」
大学は地方にして、この家を出るべきなんだろうなきっと。
あきらめなきゃ。
可愛い妹のままでお別れしなきゃ。
ベッドから起き上がり、机の上に目をむける。
そこの本立ての横にはブレスレットが置かれている。
アンティークっぽいけど、繊細な彫刻が刻まれた金のブレスレットが。
おにぃはアクセサリー類は一切つけない。
なのにいつも見える、手に取れる場所にずーっと置いてある。
前におにぃに聞いたことがある。
「このブレスレット、おにぃの?」
「ああ」
「誰かからもらったの?」
「ああ」
「女の人とか?」
「……」
無言は肯定。
「さすがモテモテのいけめーん!」「女の人からこんな高価そうなものもらうなんてやりますな~」なんてはやし立ててごまかしたけど、ショックで泣きそうだった。
こんな風に大事に飾ってるなんて、相手はよほど……
「あ~だめだ。また落ち込んできた。マウス借りてさっさと宿題しよう」
ぽーん
ピアノの鍵盤をたたく。
ぽーん
「何? まだ進路で悩んでるの?」
練習室のグランドピアノに突っ伏している私に、亜依が声をかけてくる。
「うん。亜依はどーすんの?」
私たちは高校3年生、将来を考えなくてはいけない。
「あたしはフツーの四年制の経済学部に行くつもり」
実はこの高校の音楽科から音大に行く子は半分もいない。
「そっかー。やっぱピアノ辞めちゃうんだ」
「ま、上には上がいることを知ったし、あたしの実力じゃピアノで食べていけないからね」
「私も同じだよ~。でもなんかさ、諦めきれなくて……」
「じゃ、とりあえずは音大に挑戦したら? やるだけやって決めたらいいじゃん。あたしらまだ若いんだし、いくらでも方向転換できるっしょ」
「そうだけど、音大は授業料高いし~これ以上おにぃの負担になりたくないってゆーか……」
「え? ジーンさん稼いでるでしょ?」
「でもそれはおにぃが、身体を張って稼いだお金で…」
「なぁに言ってんの? 可愛い可愛い妹のためならポンと出すでしょ? 甘えちゃえ!」
「……うん」
「それにいざとなったら、海外進出したらいいじゃん。海外のトップ選手のファイトマネーって数十億らしいよ? ジーンさんなら体格的にも実力的にも活躍できそうなのに、どうしてファイトマネーが安い日本でやってるんだろ」
「……」
「……ってアリーを一人にできないからだよね。地方興行にも行かないくらいなんだし」
ごめんごめんと言いながら、亜依はポンポンと私の肩をたたく。
「とりあえず、その悩みをそのままジーンさんに相談してみな? 10才も上なんだから良いアドバイスくれるんじゃない?」
「うん」
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