第5話 恐怖のマイホーム


ウサギ(仮)の極上肉(タバコ葉浄化済み)を食らい終え、俺は川辺で最高の一服をふかしていた。

「(ぷはぁ…うまい)」

腹は満たされた。

(食は解決した。だが、次は「住」だな…)

俺は自分の格好(泥だらけの安物スーツと革靴)を見下ろす。

(いつまでも川辺で野宿はキツイ。レベル18になっても、このスーツで寝るのは最悪だ)

(雨風をしのげて、魔物に怯えず寝られる場所…安全な寝床が必要だ)

(とはいえ、家を建てる知識も技術もない…)

開拓するにしても、あの「光の刃」で木は切れるだろうが、どう組み立てるんだ。面倒くさすぎる。

(そうだ、川沿いに手頃な『既存物件』…洞窟とかないか?)

サラリーマン的(合理的)な思考で、俺は「中古物件」を探すことにした。

Lv.18の身体能力で川沿いを探索すること10分。

「……あった」

川岸から少し高い斜面に、ちょうどいい大きさの洞窟を発見した。

中は真っ暗だ。

(光の刃(ライトセイバー)は明るいが、アレを照明代わりに振り回すのは危なっかしい…)

俺は、さっきウサギを狩るのに使った「棍棒」の残り(燃えやすそうな木の枝)を拾い上げ、ライターを構えた。

(イメージは、さっき肉を焼いた「焚き火」モード。燃え移る、安定した火だ)

カチン。

「ゴゴゴ…」

ライターの火口から安定した「焚き火」の炎が現れ、棍棒の先に燃え移った。

(よし、「松明」の完成だ)

俺は即席の松明を掲げ、恐る恐る洞窟の中へと進む。

洞窟は奥に広く、そこそこの空間が広がっていた。

だが。

「うわっ…」

松明の炎が照らし出したのは、先住民の巣窟だった。

奥の空間一面に、ビッシリと蜘蛛の巣が張られ、そこには森の中でチラリと見た、あの「巨大毒グモ(紫の斑点模様)」が大量にうごめいていた。

天井には、ひときわデカい、ボスらしき「母蜘蛛」が鎮座している。

「キシャァァァ!!」

俺(侵入者)に気づいた母蜘蛛が、威嚇音を発する。

それに呼応して、何百匹(?)もの子グモたちが、壁や地面をカサカサと一斉に動き出した!

「うわあああああああ!! ムリ! ムリ! ムリ!!」

俺はLv.18の身体能力も忘れ、冴えないサラリーマンの絶叫を上げた。

昆虫(クモは昆虫じゃないが)の大群とか、生理的に一番ダメなやつだ!

俺はパニックになり、踵(きびす)を返して入り口に向かって逃げ出した。

その際、恐怖で手が滑り、

「あつっ!?」

持っていた「松明」を、手放してしまった。

松明は、コロコロと洞窟の奥、クモの巣の手前あたりまで転がっていき、燃え続けた。

俺は洞窟の外へ転がり出る。

「(追ってくるか!?)」

息を殺して入り口を見る。

だが、クモたちは追ってこない。

洞窟の中から、松明の炎に怯えるかのように、カサカサという音と、威嚇音だけが聞こえてくる。

「(はぁ…はぁ…火のおかげで、追ってこないのか…)」

俺は川辺まで後退し、震える手でタバコに火をつけた。

「(……どうする、俺)」

最高の一服で、無理やり冷静さを取り戻す。

(あの洞窟、広さも場所も最高だ。諦めるのは惜しい。だが、あの大群…)

(第5話 完)

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