第6話 浄化のバ◯サン
どうやってあの大群を「駆除」するか…)
俺は、手に持ったタバコの煙を見つめた。
(火柱で全部焼くか?)
俺は、洞窟の奥で燃え続けている(はずの)松明を思い浮かべる。
(いや、待て。あの火柱は加減が効かない。こんな閉鎖空間で使ったら、俺ごと蒸し焼きか、最悪、洞窟が崩れる)
(それに、あの松明の火も、クモを「追い払う」だけで、「倒せて」はいない)
(……そうだ、「煙」だ)
(蜂の巣を駆除するみたいに、煙で燻(いぶ)し殺せばいいじゃないか)
(俺には『無限補充のアッシュモーク』がある。普通の木じゃ煙が足りない? 関係ない。タバコを1000本でも2000本でも使えば、あの洞窟くらい充満させられるはずだ!)
(タバコの煙が体に良いなんて、俺(人間)だけかもしれない。クモにとっては猛毒かもしれん!)
さっきタバコ葉が食材の毒(エグ味)を浄化したことなど、興奮した俺の頭からはすっかり抜け落ちていた。
「(よし、決まりだ。異世界式の『バ〇サン』だ!)」
俺は、洞窟の入り口のすぐ脇(クモから見えない位置)に陣取った。
『無限補充のアッシュモーク』の箱を開け、逆さにする。
タバコが一本、また一本と、無限に補充されながら足元に落ちていく。
俺はそれをかき集め、あっという間に巨大な「タバコの山」(推定1000本以上)を洞窟の入り口に作り上げた。
「(これだけあれば十分だろ)」
俺はタバコの山にライター(焚き火モード)で火をつけた。
一瞬で、凄まじい量の「煙」が立ち上る。
「―――ゲホッ!ゲホッ! こりゃヤバい!」
あまりの煙に俺がむせ返る。
「(仕上げだ!)」
俺はライターを握りしめ、森で最初に火をつけた時の「熱くない炎」をイメージした。
(イメージしろ、俺! 炎じゃなく、『風』を! 奥へ送り込む『風』を!)
ライターを構え、念じる。
カチン。
「ゴオオオオオッ!」
火口から噴き出したのは、炎ではなく、強力な「熱風(熱くない)」だった!
俺はその「送風モード」を、燃え盛るタバコの山(大量の煙)に向けた。
「行けっ!『浄化の煙(ヒーリング・スモーク)』!」
(と、この時の俺は思っていない。『死ねぇ! 虫ケラども!』くらいに思っていた)
凄まじい勢いで、1000本以上のタバコが生み出す超高濃度の煙が「送風モード」に乗り、洞窟の奥へと叩きつけられる!
「キイイイイイイッ!!」
奥から、クモたちの甲高い、断末魔のような悲鳴(?)が響き渡る。
煙は洞窟の奥まで充満し、さらに、洞窟の天井や壁の「隙間」から、森全体へと漏れ出していく。(この大量の「浄化の煙」が、森の浄化を加速させているとは、俺は知る由もない)
煙が充満しきった頃、クモたちが苦しむように、次々と巣から落ち、洞窟の入り口に向かってカサカサと逃げ出してきた!
俺は慌てて「光の刃」を構え、迎撃の体勢をとる。
だが、その必要はなかった。
「……あれ?」
煙を浴びて、入り口の光(外光)の下に飛び出してきたクモたちは、毒々しかった「紫色の斑点」がスッと消え、地味な「灰色」のクモに変わっていた。
明らかに、凶暴だった目つきが、なんだか穏やかになっている(ように見える)。
クモたちは俺を威嚇するでもなく、ただ困惑したように、入り口付近の壁で動きを止めた。
最後に、ひときわデカい「母蜘蛛」が、煙から逃れるように這い出てきた。
母蜘蛛も、俺の足元でタバコの煙を直に浴びると、ビクンと一度大きく痙攣(けいれん)し、その毒々しい紫色の模様が、美しい銀色(?)に変化した。
そして、俺を威嚇するのをやめ、その場でピタリと動きを止めた。
「(マジかよ…バ〇サン成功? いや、殺すつもりだったのに…『浄化』しちまったのか?)」
(まあ、害がなくなったなら、それでいいか)
クモたちの「敵意」が消えたことを確認した俺は、洞窟の奥へと進んだ。
(奥に落とした松明も、ちゃんと消えているな。よしよし)
仕上げに、ライターの「熱くない炎(乾燥モード)」を全開で発動。
洞窟内のジメジメした空気と、クモの巣の残骸(?)、そして充満したタバコの残り香が一瞬で蒸発し、岩肌や地面が「ホテルのようにサラサラ・フカフカ」に乾燥した。
「(なにこれ快適すぎる!ブラック企業時代の俺の独身寮より上等だ!)」
目の前には川が流れ、水と食料(魚も獲れるかも?)の心配もない。洞窟は「熱くない炎」で乾燥して快適、おまけに浄化されたクモたちが入り口を見張ってくれるなら**(希望)**、安全性も抜群だ。
こうして俺は、文句なしの最強の拠点(仮)を手に入れた。
クモたちは「害のない存在」として、洞窟の天井や隅で静かに暮らし始めた。
(殺すつもりだったが…まあ、結果オーライか)
俺は、完璧なマイホームを手に入れた満足感と共に、極上の一服をふかしていた。
「(ぷはぁ…最高だ)」
俺が、その芳醇な煙を吐き出した、その時。
(ピロリン♪)
「ん?」
《永劫の道具(エターナル・ギア)の熟練度が規定値に達しました》
《『無限補充のアッシュモーク』が Lv.2 → Lv.3 にレベルアップしました》
《レベルアップにより、新たな能力(煙・葉)が解放されます》
《スキル《超速再生 Lv.2》が《超速再生 Lv.3》にレベルアップしました》
《新規スキル《煙霧変調(フォグ・チューニング) Lv.1》を獲得しました》
《新規スキル《葉身変質(リーフ・トランスミュート) Lv.1》を獲得しました》
「…………え?」
(第6話 完)
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