第25話:逃亡者
20××年5月3日(金):桃源郷キャンプ地
:幸徳井友子(かでいともこ)視点
【じゃあ、やってみようか?】
「分かっているわよ、早く孵化してね」
ロッテに言われるまま、無洗の孵化用有精卵に魔術をかける。
精霊や妖精に早く成長させてくださいとお願いして魔術をかける。
成長を進める魔術なんて、下手をしたらとんでもない武器になる!
昨日の買い物では、道具だけでなく家畜も買う事にしていた。
だた、大きな牛や馬、豚や羊は運ぶのが大変だ。
鶏も飛び回って危ないだろうし、他に買いたい物も多かった。
そこで、日本のサーバーに残っているロッテたちが調べて予約してくれていた、実績のある養鶏場で孵化用有精卵を大量に買った。
卵や冷凍の鶏肉を大量に買ったのに、有精卵を買って孵化させる必要があるのか少しだけ疑問に思ったが、何時日本に行けなくなるか分からない。
裁判には勝てると思うけれど、専務や会長を有罪にできても、社長や一族たちは何の罪にも問われずに残っている。
自分たちが罪に問われないように、大人しくしていてくれたら良いけど、恨みの精神が強いと聞いている財閥一族だ。
一族の面目に賭けて私を狙い続けるかもしれない。
そん危険が残る日本に戻るよりは、このまま桃源郷で暮らす方が、穏やかに生きて行けるかもしれない。
その時の為に、ロッテたちが鶏を飼おうとしてくれているのなら、私が文句を言ってはいけないと思った。
「「「「「ピィピィピィピィ、ピィピィピィピィ、ピィピィピィピィ」」」」」
100個の有精卵から100羽のヒヨコが孵った!
とても可愛くて、死なさないように急いで白熱電球で温めてあげようとしたら、精霊たちが集まってきてくれた。
優しく穏やかに光り、ヒヨコが死なないように温めてくれた。
思わず涙が流れてしまって、成長しても食べられない気がして来た。
【自分で育てた鶏が食べられないと言うなら、卵だけ食べよう。
メスの半数を隔離して、無精卵を生ませたら罪悪感なしで食べられるよね?】
「多分だけど、食べられると思う」
私は急いで土魔術の欄をタップして鶏舎を作った。
テレビや動画で見た、採算重視の鶏舎ではなく、ヒヨコたちが安全にびのびと暮らせる、広くて快適な鶏舎を作った。
精霊や妖精が守ってくれているから、このキャンプ地にヒヨコを害するモノが入り込んで来るはずがないのに、不安になって鶏舎を作ってしまった。
ヒヨコたちのことを考えれば、キャンプ地を自由にさせてあげるのが良いのだけれど、イタチやキツネに鶏が襲われる動画を覚えているので、つい作ってしまった。
キャンプ地内の鶏舎だけでは終わらず、横穴住居の壁に広く長い穴をあけて、ヒヨコだけが自由に出入りできる、作り付けの鶏舎まで作ってしまった。
【友子は心配性だね】
「しかたないじゃない、性分なんだから」
【友子がそんな性格だからこそ、私たちが生れられたから、文句は言えないね】
「そうよ、ロッテは友達だけど、私の子供でもあるんだからね」
【はい、はい、分かっていますよ。
ちょっと待って、誰かがやって来る!】
「誰かっていう事は、魔獣ではなく人なんだね?」
【ええ、人よ、正確には汎人族ではなく獣人族のようね】
「ええええええ、この世界には獣人がいるの?!」
【日本に隠れ住んでいる仙人の話だと、獣人がいるようね】
「そんな話、全然しなかったじゃない!」
【聞かれなかったからね】
「聞かれなかったからって、教えて欲しかったわよ!」
【仙人から聞いただけの知識だから、確証がなかったの。
確証の無い情報を友子に話す気になれなかったの】
「だったらしかたないわね、それで、獣人はどうするの?」
【キャンプ地に住む精霊と妖精がものすごく増えたから、結界の範囲がとても広くなっているし、敵を防ぐ力も強くなっているわ。
妖精が作ってくれた塀は越えられないから、放置しておけばいいわ】
「王子のように、誰かに追われていない?」
【ちょっと待ってね、ドローンで確かめるわ。
追われているわね、人相の悪い汎人族が追いかけて来るわ】
「助けてあげて!」
【いいの? また気が休まらなくなるわよ?】
「見殺しにした方が悪夢にうなされるわ、直ぐに助けてあげて!」
【友子なら絶対にそう言うと思って、妖精たちに行ってもらっているわ】
「妖精たちが傷ついたりしない?」
【だいじょうぶ、私たちのリソースを使って操っている兵士もいるから】
「ロッテたちが操っている兵士て?」
【王子様が襲われた時に斃した連中が着ていた、汚い服を装備した私たちの一部が、妖精よりも前にいるから、妖精たちは支援の魔術を使うだけよ】
「ロッテたちは魔術が使えないけど、妖精は使えるのね?」
【精霊の使う魔術よりは弱いけれど、妖精も魔術が使えるようよ】
「でも、それだとロッテたちが操る兵士が壊れるんだね……」
【気にしない、気にしない、鎧武者でも着ぐるみ寝巻でもない、とんでもなく臭くて汚い兵士の装備だから、友子は気にしなくて良いの。
友子が気にしなくて良いように、遠くで全部終わらせるから】
「それでは卑怯者になってしまうわ」
【うだうだ言ってると、いいかげん怒るわよ?】
「うん、ごめん」
【私たちにまかせて、いいわね?】
「うん、まかせる」
20××年5月3日(金):桃源郷キャンプ地の南側荒れ地
:ロッテことロッテンマイヤー:幸徳井栄子(かでいえいこ)視点
何とか友子が分かってくれた。
友子の獣人族を助ける気持ちは変わらないが、どのような手段で助けるか、友子の決断で変わってしまう。
襲って来る汎人族を殺しても良いのか、できるだけ殺さないようにするのか、絶対に殺してはいけないのかで、助ける難易度が変わってしまう。
友子もそんな事は分かっているから、今回は襲ってくる人間については何も言わず、獣人族を助けるのと、私たちが傷つくかどうかだけ口にしていた。
前回の王子を殺そうとしていた連中が、どれだけ説得しても襲うのを止めず、私たちにまで執拗に襲い掛かって来た現実を、友子は覚えている。
だから襲撃者は殺して構わない、問わず語らず、暗黙の了解という奴だ。
【だいじょうぶ、私たちは味方よ、敵は私たちが防ぐから、貴方たちは行きなさい】
「「「「「ありがとうございます!」」」」」
分かっていた事だが、逃げて来た獣人族は子供たちばかり。
奴隷とするために、子供たちだけの所を襲ったのか、親は殺したのか?
どちらにしても、絶対に許せない極悪人だ!
「どけ、俺たちの獲物を横取りする気か?!」
前回の農民兵とは違う、山賊としか言えない連中が文句を言う。
金属製の防具はほとんどないが、布鎧の要所を革で補強している。
武器も棍棒ではなく槍を手にしている、良い得物ね、再利用してあげる。
【獲物ですって、獣人族は獣じゃないわよ!】
「け! 善人面しやがって、どうせ助けた後で売り払うんだろうが!」
【お前達のような小悪党と一緒にしないで欲しいわ】
「なんだぁ、女かよ、だったらたっぷり可愛がってやるよ、やっちまえ!」
「「「「「おう!」」」」」
【けだものに抱かれる趣味はないの、さっさと死になさい】
私がそう言うと同時に、お爺さんと保幸が操る布鎧兵が一斉に動いた。
山賊はこちらの装備を見て、ただの農民兵だと思って舐めている。
確かに山賊たちの方が農民兵よりも数多くの修羅場をくぐっている。
だけど私たちは農民兵ではなく、農民兵を殺した戦闘マシーンだ。
更に扶桑の覇霊となった私たちは、とんでもない魔術も放てる。
まあ、こんな弱者を相手に魔術を使ったりはしないけど。
「なぜだ?! なぜ槍で心臓を突いているのに死なない?!」
《お前達ごときに殺される俺様ではない!》
友子と王子様の事で苛立っている保幸が、防御もせずに暴れている。
それどころか、手加減もせずに山賊を殺している。
【保幸! 武器と防具は再利用するのよ! 壊さない!】
《はい!》
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