第24話:買い出し

20××年5月2日(木):桃源郷から日本東京都内、更に桃源郷

            :幸徳井友子(かでいともこ)視点


【友子、食べ終わったら買い物に行くわよ】


 ロッテが作ってくれた、出汁の利いた関西風の玉子焼き、旨味の強い鹿魔獣の腕肉を薄切りにしてバターソテーした肉料理、自家製の食パン、桃源郷産のとてつもなく美味しい果物と野菜のサラダ、フルーツジュース、コーヒーの朝食を食べ終えたのを見計らって言われた。


「分かっているは、今度こそ自動運転3レベルの車を買いに行くわ」


【買い物リストは作ってあるから、安全な上に効率的に買い集めるわよ】


「分かっているは、全然自信がなくて、とても怖いけれど、運転がんばるわ」


 私はそう言って6人乗り2トントラックのエンジンをかけた。

 悪路を半泣きになりながら運転して、廃村から郊外の村に行った。

 そこから都内までの道も、ペーパードライバーの私には厳しかった。


 それでも、ロッテたちが比較的安全で運転しやすい道をナビしてくれたので、廃村までの悪路ほどは怖くなかった。


【最初に、米や小麦を自作できるように、品種改良されていない、次代をつむげる種を買いに行くわよ】


 最初に、比較的重くなく容量も少ない物を買った。

 何かあった時の為に、医薬品もこれでもかというくらい買った。

 動物や恐竜の着ぐるみ寝巻や衣料用の布を大量に買った。


 他にも、鹿型魔獣を美味しく食べるための調味料を大量に買った。

 卵も10kgの段ボール箱に10個も買った。

 数で言うと1700個前後もあるので、さすがに買い過ぎな気がする。


 ストレージが時間を止められるようになったので、玄米やそば粉、薄力粉や強力粉といった、穀物も大量に買った。


 次に家電量販店を周って大型の家電製品や調理器具を買った。

 家電のミキサーやジューサー、ひき肉器や炊飯器だけでなく、手動で作れるジューサーやひき肉器、羽釜や蒸し器まで買った。


 洗濯は、頼めばロッテや妖精たちがやってくれるのだけれど、どうしても悪いと思ってしまうし、精霊や妖精に嫌われた時が怖いので、洗濯機を買った。

 ストレージから出して冷やしておきたい物もあるので、冷蔵庫も買った。


【エコよエコ、伐採した材木の端材を使って、薪ストーブを活用するの。

 節約家の友子なら、買うのではなく自作するでしょ?

 土魔術で耐熱煉瓦製の暖炉とピザ窯を造るわよ】


 オーブンやトースターも買ったけれど、冬の暖房と同時に料理ができる、薪ストーブオーブンを見学して頭に構造を叩き込んだ。


 夏の暑い盛りは、できれば火を使った料理はしたくない。

 そんな気持ちもあって、ピザ窯はテントから離れた場所に造ると決めた。

 6人乗り2トントラック一杯の買い物をしてから中古車販売店に行った。


 最後にロッテたちが手配してくれた、自動運転3レベルの車を確保した。

 色々見られたくない事があるので、6人乗り2トントラックは駐車場に置いて、徒歩で中古車販売店に向かった。


 中古車販売店さんが、けん引免許のいらない軽トレーラーを接続してくれていた。

 これだけは仕方がないので、自分の名前でサインしてカードを使った。


 車庫証明はロッテたちが上手くやってくれたようだけれど、本人確認だけは自分の顔を見せなければいけないので、サングラスを取りマスクも外した。


「えっ、貴女は?!」


【財閥に命を狙われているから他言無用です。

 誰かに話したりネットに投稿したりしたら、殺人ほう助で訴えます!】


「佐々弁護士事務所の方とは常時繋がっています。

 貴男が弁護士事務所からの警告を聞いたのも、サーバーに記録されています。

 私が殺されるような事があれば、貴男は徹底的に調べられますよ!」


「ひっ! 誰にも言いません、ネットにも投稿しません」


《もう必要な書類は全部書き終えたな?!》


「はい!」


《何かあったら佐々弁護士事務所に連絡しろ、いいな?!》


「はい!」


 私と女声のロッテだけでは舐められるけれど、男性の声を使うフェルが佐々弁護士の振りをして厳しく言ってくれたので、ネットに投稿しないと思う。


 思うだけで絶対ではないので、急いで桃源郷に戻る事にした。

 自動運転3レベルの乗用車には、運転席と助手席に戦国甲冑を置いた。

 本当はロッテたちが自動運転しているけど、運転席を無人にはできないからだ。


 重くかさばる荷物を大量に買ったので、重くなった6人乗り2トントラックはとても運転が難しくなっているけど、私が運転するしかない。


 大過重にふらつくトラックに涙目になりながら、桃源郷に戻る。

 後をつける財閥の刺客がいないかは、ロッテたちが見張ってくれる。

 トラックや乗用車のカメラだけでなく、監視カメラもハッキングして見張る。


 トラックは重くて運転し難いけれど、前をロッテたちが操る乗用車が走ってくれているので、私はその後を追うだけでいい。


 私の運転レバルにあわせて速度を選び、ハンドル操作も加減してくれている。

 左右のカーブはもちろん左折右折も、余裕を持って事前に教えてくれる。

 慌ててハンドルを切る事もブレーキペダルを踏む事もない。


 何よりも安全を優先して、ゆっくりと桃源郷に向かう。

 まだ帰るとまでは言えないけれど、日本にいるよりは安心できる。

 王子がいるので気は休まらないが、刺客に怯える日本よりはいい。


【お疲れ、安全な日本に戻ってきたよ!】


「うん、トンネルを抜けてようやく安心できた」


【まだ終わりじゃないよ、日持ちしない物はストレージに保管するよ】


「分かっているわよ、一度全部ストレージに入れて、間取りを考えて置いて行けばいいんでしょう?」


【その通りなんだけど、先に崖に穴をあけて横穴式住居を造るよ】


「横穴式住居?」


【私たちが日本から抜けてくるトンネル側、東側は切り立った崖だよね】


「そうだね、ロッテの教えてくれた桃源郷の方角が正確なら、東だね」


【見上げても先が分からないくらい高く切り立った崖に穴をあけて、非常時に逃げ込める横穴式の住居を造っておくことにしたの】


「唐突だね」


【友子は王子様と一種だと気が休まらないのでしょう?】


「うん、どうしても気にしてしまってくつろげない」


【精霊や妖精が作ってくれた塀の結界は、鹿型の魔獣ですら中に入れないくらい強固なんだけど、友子の常識では弱いと思ってしまうんだよね?】


「守ってくれている精霊や妖精には悪いんだけど、魔獣は防いでくれても、塀を乗り越えてくる痴漢を防いでくれるのか、不安になるんだよね」


【だから、崖に横穴を掘って頑丈な扉で塞ぎ、友子が安心できるようにするの】


「それなら安心できるかもしれない」


【じゃあ、さっさと掘ってしまおうか?】


「おう!」

 

 何度かタブレットのアプリを使って魔術を放っているので、どうすれば崖に横穴を造れるか想像できた。


 アプリを起動させて土魔術の欄をタップして、桃源郷に来るのに通るトンネルと同じ高さと横幅のトンネルを造りたいと、精霊や妖精にお願いする。


 一瞬だった、信じられないけれど、一瞬で横穴が掘れてしまった。

 暗くてよく分からないけれど、とんでもなく長いトンネルが造れてしまった。


 桃源郷に来る時に使うトンネルをイメージしたのが悪かったのだと思う。

 熊や原始人がねぐらに使う横穴をイメージしていたら、長さはせいぜい10メートルだったのだろうけど、このトンネルは先が全く分からない。


【あれ、あれ、とんでもなく長いトンネルを造ったね。

 でも、これくらい長い方が、何かあった時に奥に逃げ込める。

 途中に隔壁を造っておけば、少々の敵がきても安心して隠れていられる】


「ちょっと、不安になるような事を言わないでよ!」


【ごめん、ごめん、でも、これで友子の不安が解消できるでしょう?】


「そうかもしれない」


【これだけ長いトンネルを造ってしまうくらい、友子は不安だったんだよ。

 王子様だけでなく、この世界の敵や財閥の刺客が怖かったんだ。

 それらから隠れる為には、長いトンネルが欲しいと思ったんだよ】


「そうだね、この長さが私の不安なんだね」


【確かめに入るよ、ついて来て】


 ロッテたちと一緒にトンネルを確かめる事にした。

 両手が自由に使えるように、ヘルメットや兜にヘッドライトを装備した。


【絶対に落盤が起こりそうにない硬さに固めてあるね】


 壁や天井を見てロッテが言いう。

 参考にしたトンネルが良かったのかもしれないし、私の不安が生み出した産物かもしれない。


【さっきも言ったけど、何かあった時の為に隔壁を造るよ】


「うん」


【非常用の横穴、隠し部屋も造っておこう!】


「なんか楽しんでない?」

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