第19話
トイレトイレっと、俺は校舎をふらふらと歩いていた。
その瞬間ばんっと衝撃が走った。そばには女の子が倒れている。
髪はボサボサで、前髪が目にかかってしまっている、これ前見えてるのかな?
どうやらぶつかってしまったようだ。
「ごめんね、大丈夫?」
声をかけると、小動物のような涙目で俺を見上げながら、
「ご、ごめんなさい。し、失礼します」
そのまま走り去ってしまった。よほど急いでいたのだろうか。
女の子が倒れていたところをみると、なにやら薄っぺらいものがおちていた。
ピック?しかも結構使い込まれてる。
「どーしようかなぁ、これ大事なものだったら届けてあげたほうがいいよなぁ」
自分の好きなバンドのピックを大事にしている人もいる。
あの女の子にとってこのピックにどれほどの価値があるのかわからないが、届けておくにこしたことはない。
思いながら、ぶつかった場所にいってみると、いた。
やっぱり大事なものだったようだ。
「あの、探しているのってこれかな?」
ピックを見せる。と女の子はぱぁっとうれしそうな顔になり、
「あ、ありがとうございます、これとても大事なもので。……見つかって良かった」
よほど大事なものだったのだろう、安心そうな顔をみて俺も満足だった。
「あのさ、もしかしてなんだけど、ギターやってたりする?」
女の子は覚悟を決めたような声で、
「天宮せんぱい、ですよね?」
「わたし、
俺のことを知っているようだった。どこかで会ったことがあるのだろうか?
「どこかで会ったことあったっけ?ごめんね、ちょっと覚えていなくて」
「いえっ、わたしが一方的に知っているだけで」
「中庭ライブ全部見てました、とても楽しそうでした」
なるほど、あのライブを見てくれていたのか、俺が忘れていたのではなさそうだ、納得した。
ピックを大事にもっていたこと、ライブを見てくれていたこと、音楽が好きなのだろうか?
「ライブとかよく行くの?ピックも大事にしてるみたいだし」
「あの、これお父さんのバンドのピックで、ギターはお父さんに教えてもらって」
お父さんがバンドをやっているのか、このピックに描かれているロゴをどこかで見たことがあるような気もするが、思い出せない。
なにか有名なバンドのロゴじゃなかったか?
「あ、あのっ!」
うーんと考えていると、白川さんが覚悟を決めたように声をかけてきた。
「ギ、ギター募集してますよね!?わ、わたしにやらしぇてくれませんか!?」
あ、噛んだ。白河さんの顔が真っ赤に染まる。
「うー、……やらせてくれませんか!?」
白河さんが言い直す。なんかこの子を見ていると微笑ましくなってくるのは俺が年をとったせいだろうか。
まあそれにしてもギターを募集していることも知っているのか、やっぱりバンドやライブが好きなんだろうな。
でもここでギターをやってくれる子がいるのはかなりありがたい。
ヘルプでやってくれていたミミさんも、最近はメインのバンドの方が忙しそうだったし。
「ギターやってくれるのはすごくありがたいんだけど、ギターってどれくらい弾けるの?」
「あの、ギターは3歳のころからやっていて、それなりには弾けると思います」
3歳!?俺でもベースを触ったのは小学生だ、ということはものすごくうまいのかもしれない。
「でも、バンドはしたことがなくて、家でずっと弾いているくらいで、」
「じゃあさ、今度の土曜日にちょっとだけ合わせてみない?」
確か灯火も未来も土曜日は何も予定は無いと言っていたはずだ。
「わ、わかりましたっ、曲はHYTの曲でいいですか?」
「HYTの曲わかるの!?」
「あ、ネットに上がっているのをいつも聴いていますから」
おお、数少ない再生してくれるユーザがここにいた、白河さま、ありがとうございます。
「じゃあ、スタジオとっとくね、土曜日楽しみにしてる」
「は、はいっ、よろしくお願いします」
白河さんと別れて自分の教室に戻る。
とりあえず灯火に報告しなければ。
「今度の土曜日にさ、ギターの子と合わせることになった」
「は?誰と?」
「一年生の白河天音さん?だったかな。ギターやりたいって声をかけてくれて」
はぁ、やれやれといった様子の灯火。まあいつものことだと思ってあきらめてほしい。
「まあいいんだけどさ、その子どれくらい弾けるの?」
「さぁ、でも3歳からギターやってたって言ってたかな、うちの曲も知ってるみたいだったし」
「3歳はすごいね、あたしたちよりも全然歴が長いじゃない」
「ま、一回合わせてみようよ、うまければよし、下手でも楽しければいいよ」
未来にも連絡のメッセージを送っておく。
「土曜日新しいギターの子とスタジオ、いける?」
「大丈夫です」
「じゃあよろしく」
「……ロリコン」
おい、お前絶対見てただろ。
そんな感じで、土曜日の予定が埋まるのであった。
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