第16話
出来上がった詩は想像以上にとても良かった。
辛さ、泣きたくなる思い、憎しみ、それでも立ち上がりたいという勇気。
まさに今の未来のようであった。
「よーっし、じゃあこれで曲作る」
「あはははは、いいじゃん。不安も不満も憎しみも、全部吐き出せー!ってね」
ミミさんが笑いながら口にする。若者を見守るおっさんのような、いや、ゲフンゲフン。
そして出来た新曲のデモをみんなにきいてもらう。
「けっこう激しいね」灯火が感想を口にする。
「いいじゃん、めっちゃ楽しそう」ミミさんがニヤリとどこか悪い表情をしている。
……未来は終始無言だった。
そして何度も何度も曲をリピートする。
どれくらい聞いていたのだろうか、パっと顔を上げると、未来が泣いていた。
「これ、わたしの曲なんですよね」
「最高です、ありがとうございます、天宮センパイ」
――
まあそんなこんなで、ドラムは灯火、ギターはミミさん、ベースボーカルの俺とボーカルの未来。
この4人で中庭ライブのオーディションを申し込むのだった。
オーディションは幸いにも土曜日に行われた。
全部で5組、全てバンドでのエントリーだった。
オーディションの日、未来は絶対に行くと言ってなんとか来てくれた。
ステージに立てるのは3組、順番に1曲ずつ演奏していく。俺たちは未来愛歌をやることにした。
何を評価しているのかよく分からない、はやりの曲のカバーなどのほうがいいのだろうか?
結果が出るまでにそんなことを考えていた?受かるだろうか?
まあそんな心配も杞憂に終わる、俺たちは中庭ライブの権利を手に入れた。
――
中庭ライブは得に問題もなく着々と進められていた。
結構観客が多い、ステージだけでなく校舎からも見られるので、かなりの生徒がライブを見ているだろう。
スケジュールに沿って、ダンス部や吹奏楽部の発表が進められていく。
次は俺たちの番、全員でステージに上がる。
俺はベースを、灯火はスティック、ミミさんもギターを手にして観客席に目を向ける。
未来もしっかりとした足取りでマイクの前まで歩いてくる。
「ねぇ、あの子ずっと不登校だった子じゃない?」
「確か、誰とでも寝るーみたいな感じじゃなかったっけ?」
観客たちがざわざわしはじめる。
未来は下を向いて、この状況を必死に耐えているような印象だった。
やっぱり厳しかったか?そう思った瞬間だった。
未来がマイクを掴み、観客に向かって話し始めた。
「わたしは誰とでも寝るようなビッチだとウワサを流されました、それで学校に行けなくなりました」
「でも、辛くて辛くてたまらない時にある人の歌に出会い救われました」
「……希咲未来!勇気出します!」
未来はすーっと大きく息を吸い込むと、
「わたしは処女だ!やりチンクソやろーーー!!!」
透き通った、力強くよく通る声、学校中に聞こえたんではないだろうか。
あたりが静寂に包まれる。
はっとして周りを見渡すと、灯火はポカーンとした顔で、ミミさんは大爆笑している。
はぁ、はぁ、未来が肩で息をする。
すると未来は後ろを振り向き、晴れやかな顔で言い放った。
「あー、スッキリした!」
「いきますよ!センパイ!!!」
はっ!として、灯火がスティックを鳴らす。
未来が歌い出す、いい感じだ、かなりノってる時の声。
次は俺のパート、自然に力が入る、自分でもかなりノってるのが分かる。
コンディションは最高だ。
次は未来とのユニゾン、今までで1番いいといえる、最高に楽しい!
先ほどまでは未来の宣言にポカンとしていた観客だが、曲が始まるとともに一気に盛り上がる。
体を揺らし声をあげ、こぶしを上げて飛び跳ねている。
そのままのテンションで1曲目がおわる。
「はぁ、はぁ」
2人とも息切れしてる、でもまだまだこれからだ、まだまだいける。
次の曲に入る、そのまま曲がおわる。
いよいよ最後の曲になった。
未来が作詞をし、俺が作曲した未来のための曲。
もう観客に受けるかどうかなどどうでもいい、ただ未来が気持ちよく歌ってくれればそれでいい、そう思っていた。
ギターが鋭く切り込む、合わせて未来が歌い始める。
この曲はサビ以外、俺のボーカルはない。
未来は全開だ、あの小さな体のどこからこんな声が出ているのか、ただ心のままに叫ぶ。
やっぱりこの子はすごい、改めてそう思った。
サビに入り俺も歌い出す、2人の声が重なる。
もうこの瞬間、誰にも負けないような気がした、どうだすごいだろううちのボーカルは。
聞き逃さないようにしっかり聞いて刻め、希咲未来というボーカルを。
……曲が終わった。
「うぉー!処女さいこー!かっこいいー!!」
なんか途中に良からぬ言葉が聞こえたが、とりあえず無視することにした。
次々に湧く観客に俺は確かな手応えを感じた。
「聞いてくださり、……ありがとうございました!」
未来は天高く中指をたて、そう言い放った。ロックだなおい、俺は苦笑していた。
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