2話 余裕の合格(自己評価)
魔術理論の教本を読み、早一か月。その間に合否の発表がされ、もちろん合格をした俺は学園に来ていた。
王立キルケール学園、武術や医学、様々な学科が存在する学園だ。そして、そのなかでも俺の合格した魔術学科は規模が大きく、最も受験者数が多い学科でもある。
決して、ほかの学科が廃れているとか、ないがしろにされているわけではない。ただ、魔術とは多くの人物が夢見る学問なのだ。学科ごとに細分化された専門分野、魔術はそれが特に多い。それも規模が大きい理由だろう。
また、寮制の学園で今日来たのは荷下ろしのためである。
「一人一室とは贅沢だよな」
広大な学園の面積があるからこそ叶うのだろうが、在学生もかなりの数だ。その一人一人に一室が与えられるなどかなりの待遇だ。
「荷下ろしもすぐ終わったし、あとはゆっくりしようか」
「ねえ、暇?」
「あー、まあ、時間を持て余してはいる」
「そう、なら私のお願い、聞いてほしい」
急に声をかけられたがこの人物は誰だろう。
言葉にするのは悪いが、幸の薄そうな雰囲気をまとう、大福のように丸い顔をした、銀髪翠眼の女性だ。
どこかで会ったことがあるのだろうか。
しかし、記憶にない。学園内にいるということは俺と同じ合格者か先輩かだろうが、急に話しかけられると少し警戒してしまう。
「まずは名前を聞いてもいいか? 俺はアルヴェック・エルシルド、今年合格した新入生だ」
「名前、ディアナ......フィソローネ。私も、合格者」
名前を聞いて思い出した。彼女は俺と同じ時に試験を受けていた人物である。
思い出した、けれど試験当日は前世の記憶で自頭がすこし混乱しており、自分の試験のこと以外あまり覚えていない。
「ディアナさん、か。それでお願いっていうのは?」
「私に、魔術を教えて」
「......なんで俺? もう少ししたら学園も始まる。わざわざ俺に頼む必要はないと思うけど」
「だって、あなたの魔術、綺麗だった」
「魔術が綺麗ね。ずいぶん素敵な誉め言葉だな」
「だって、そう思ったから」
笑みがこぼれそうである。
ほめられたこともそうだが、魔術に綺麗という感想を言える人物がいることに対して、うれしくて笑みがこぼれそうだ。
魔術といえばあくまでも戦闘能力。それに対して綺麗なんて言える人物は魔術の危険性を理解していないか、魔術好きの二択しかない。
「ディアナさんは魔術は好きか」
「もちろん好き。あと、ディアナでいい」
「じゃあディアナ、魔術を教えてほしいってことだが具体的に何を教えればいい?」
「魔術の発動方法、教えてほしい。私は、魔術をうまく使えない......から」
「でも合格してるじゃないか」
「ギリギリ合格だった。受かったの、不思議なくらい。才能、ないのかも」
試験は確か評価D、とか言われていた気がする。
それが下から何番目か、試験官側ではない俺にはわからない。
しかし、俺の評価Aと四段階も違うことを考えればギリギリ合格というのもうなずける。
「教えてくれる?」
「とりあえずは受ける。教え続けるかどうかはディアナ次第だ」
「ん、がんばる」
さて、まずは何から教えようか。
魔術の発動方法、発動までのどこかがうまくいってないのか、それともすべてなのか。
考えてもわからないな。
「よし、とりあえず俺に魔法を撃ってみろ」
「え......怪我、する」
「気にしなくていい、ちゃんと防御する」
「あなたに撃つ必要はない。試験で使った、的とか。というか。魔術、ここで撃っていいの?」
「! 確かにそうだな。試験に使った場所に行くべきか」
たしかに的、というか魔術を使うなら訓練施設を使わないとまずいだろうか。
正確にはまだ入学をしていない、あくまで入学のための準備期間である今の状態で使ってもいいのだろうか。
「使えるかわからないが......」
「聞いてみればいい」
「よし、とりあえず行けばわかるか」
◇◆◇
「新入生用でいくつか解放されているとは、どこまでも好待遇としか言えないな」
「合格できて、いいことづくし」
使えるかどうかわからずダメもとで来たが、なんと普通に使えた。しかも新入生のみ使用可能で、俺たち以外いなかったので実質貸し切りである。
「よし、ここなら遠慮なく魔術が撃てるな」
「備品も壊していい、太っ腹」
「人材育成のためっていうのは奇跡の言葉なのかもな。よし、さっきの続きだ。俺に撃ってこい」
「え、的に撃つため、来たのに?」
「違うぞ、施設外で魔術を撃つことが違反の可能性があったからだ」
「やっぱり危ない。的でいいのに、あなたに撃つ必要がない」
防御魔術を使えば、危ないことはないと思うがそんなにためらわれることだろうか。初めて見る魔術は食らった方がお得だろうに。
「さっきも言ったが防御するから大丈夫だ。それに、くらえば大体の原理がわかる。だからとりあえず俺に向かって撃ってみろ」
「変な人、教えてもらう人、間違えた?」
変な人とは失礼である。前世の魔術師同士の戦いでは、初見の魔術は食らってみるものというのが常識だったというのに。
まさか、その常識も衰退したのだろうか。
「もう、どうなっても知らない。『彼方の銀彗星......
「! なるほど。『静寂を謳え、
本当は防御せずに食らうつもりだったが、食らう前にディアナが魔術をうまく扱えない理由がわかってしまった。
それでも好奇心で受けてもよかったが、防御すると言ってしまったので防御魔術を展開した。
「すごい、防御もうまい」
「一芸に秀でるだけじゃ生き残れないからな」
「なるほど......私の魔術どう?」
「そうだな......ディアナは自分のこと才能がないとか言っていたけど、そんなことはない。むしろ伸びしろしかないな」
「! 本当?」
「ああ、魔術を教えるから、器を見せてくれ」
俺は突き止めた原因を解決するため、ディアナの体に手を触れ、魔力を流しはじめた。
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