我流魔術が古代魔術と勘違いされている
冷零
一章
1話 転生してみた
ベッドに伏せ、思い通りに動かせなくなった体にもどかしさを感じる。いつの間にか衰えた筋肉、骨と皮だけで動かそうとすれば震える腕。咳をする、その動きの反動で体が悲鳴を上げる。
魔術を探究し、好奇心の尽きない心とは裏腹に、探究が満足にできなくなっていく。
老いには勝てなかった。老いから逃げることはできなかった。
まだ、魔術には可能性が残っているのに、その可能性を現実にするまでの時間が残っていない。
「まだ......まだ死ねない......」
もし叶うなら、いや、それを叶えるための魔術は作ったのだった。
意識が途切れそうな中、一つの魔術を発動した。
未来は、今より魔術がどれほど発展しているのか。もっと研究しがいのある魔術はあるのだろうか。
そう考えるだけで楽しみで仕方がない。
衰えた体の力が抜け、老いた魔術師は意識を手放した。
◇◆◇
「ディアナ・フィソローネ、判定D 次、アルヴェック・エルシルド!」
「はい!」
「得意魔術でこの的を壊せ。壊せなかったとしても試験に落ちることにはならない。魔術の発動工程、威力などを加味した結果を評価とする。質問は?」
「ありません」
「よし、それでは魔術を撃ちなさい」
俺こと、アルヴェック・エルシルドは今、王立キルケール学園の入学試験を受けている。
学園内の訓練施設に受験者が数人ずつ呼ばれ、順番に魔術を打つ実技試験だ。
俺は試験を受けるために呼ばれた五人で最後の一人だった。
「『静寂を謳え、幽玄の剣』」
魔力を剣の形にかたどる魔術を指定された的に撃つ。的に向かって真っすぐに飛ぶ剣は見事、的を貫いた。
懐かしい魔術だがうまく扱えたようだ。
「......アルヴェック・エルシルド、評価A! これで試験を終了する。後日、評価をもとに合格結果を送る。気をつけて帰るように」
「「「「「失礼します」」」」」
さて、試験も終わったので帰って情報を整理しよう。
なぜなら、今朝に前世の記憶を思い出したのだから。
◇◆◇
時系列で情報を整理しよう。
俺は今朝、目が覚めた時に長い夢を見ていた気がした。そして意識が覚醒し、それが夢ではないことを確信した。
前世での名前は、ゼウシード・ランティス。かつて、魔術の先駆者や、賢者などと言われた人物である。狂乱魔術師とかもあった気もするが覚えていない。
「ふう......はははっ」
記憶を整理しようとしたが、今朝と同じように自分の体を見て笑いがこみあげてくる。時系列はあきらめてわかることを一つずつ整理しよう。
前世の最期からは考えられないほど自由に動く体。衰えた筋肉など一つもなく、震えることもない。体が動くだけでうれしいのは前世含めて初めてだ。
「やっぱりちゃんと成功してるな。記憶もばっちりだ」
前世で死ぬ前に使った魔術はうまく成功していた。
その魔術とは転生魔術、言葉通りの転生をするための魔術だ。記憶を思い出す時期が決められないことが懸念点だったが、若々しい年齢だ。大成功である。
自我は今世のまま変化はないが、それもそうだろう。
転生といってもあくまで思い出しただけ。過去の体験程度の認識である。それに、誰かの肉体を乗っ取ったわけではない。
だから、自我に変化がなくとも驚きはしない。
「魔術の研究とは研鑽は設備を得てからだな。ま、学園に行けば手に入るだろ」
試験に落ちることはない。そう断言できる。
なぜなら、俺の魔術はかなり水準が高いからだ。前世の記憶を思い出したおかげで魔術への理解が深まった。同年代で俺と同等に魔術に精通している奴はいないだろう。
それともう一つ、今世で使われている魔術理論が理由だ。
「まさか俺の理論が基礎になってるとは」
そう、この魔術理論、前世で俺が使っていたやつである。
前世では魔術師一人一人にこだわりがあり、各自の理論で魔術を使っていたが、どういうわけか、今の世界には一つしか存在しない。
正確に言えば様々な理論が混ざったものだが大元の理論が俺のものだ。
なぜそうなったのか調べる必要もありそうだ。
推測では発展のために魔術理論の一体化して複数人で研究しようとした、とかだろうか。
「発展ともいえるような衰退ともいえるような......」
どんな研究でも理論の融合、共存はありえるが今回の場合、魔術が衰退している。
おそらく共通点のない独立していた理論同士を混ぜたからだろう。
ちぐはぐな魔術の展開、あきらかに効率の悪い魔術理論が出来上がっている。
前世以上の発展を望んでいたがそこはうまくいかなかった。
「まあおかげで合格を確信できた」
俺が最も使い慣れた魔術理論。俺が落ちるど道理は、はっきり言ってないだろう。
合否におびえることなく、発表を待つことができるのは気が楽である。
それに、衰退したならまた、発展させればいいだけでもあるのだ。
そのためには混ざった別の理論がどんなものか知ることを優先すべきだろう。
それに合わせて、この体を鍛えないと。前世の体に比べればはるかに弱い。
魔術を研究するためにも、俺自身の成長は最優先にすべきだ。
◇◆◇
side ???
アルヴェックが自分について整理しているころ、キルケール学園の試験担当の教師たちは大騒ぎだった。
「アルヴェック・エルシルド。彼は間違いなく『幽玄の剣』と唱えていました」
そう発言するのは、彼の試験を担当した教師である。
教師がそう断言するとざわつきはさらに盛り上がる。
「使える人物はいないんじゃなかったのか!?」
「そう唱えただけで発動したのは別の魔術だったりとか......」
「でもそれ以外の魔術を唱えたところを見ていないし、何より発動した魔術は剣の形でした」
どんどんヒートアップする教師たち。
古ぼけた本をめくり、アルヴェックが唱えた魔術を同じように唱える教師もいる。
「幽玄の剣は古代魔術ではないのか!?」
「どれだけ話しても
アルヴェックの知らない場所で、彼の魔術は混乱を生んでいたのだった。
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