第4話「500円の未来」
ワタシの名前は朝倉みなみ。有名漫画のヒロインと同じだ。この名前、大っ嫌いだったけど、今はそうでもない。名前負けしないようにワタシは頑張るんだ。
「朝倉。なんだか表情が明るいぞ」ゆうきくんが声をかけてくれた。
「え、そう?」
「うん。何かいいことあったのか?」
ゆうきくん、ワタシの変化に気づいてるよ。こんなだったら、告白すれば受け入れてくれるかも。よし、作戦作戦。告白したらじっと見られるから、可愛い方がいいに決まってる。それには路地裏クリニックに行って、誰でも可愛くなる薬を手に入れないといけない。だけど、お小遣い日前だから行けないよ。
では、メイクをすればいい。『猿でもできる高校生メイク』。この本は貧乏女子高生のバイブルだよ。これに基づいてコスメを買おう。
日曜日、ワタシは安物コスメをたくさん買って、商店街を歩いてた。あれ、あそこを行くのはゆうきくんじゃないか。え、すごい美人と一緒だよ。しかも年上っぽい。ゆうきくん、あんな彼女がいたの? ワタシは断固尾行することにしたよ。コーヒーショップに消えてゆく二人。テラス席に座った。あれ、楽しそうに喋って、彼女がゆうきくんの頭をこづいて。これって恋人同士の仕草じゃん。胸がキュッとなる。ショックで倒れそうだよ。失恋ということ?
ワタシはメチャメチャに街を歩いたよ。ゆうきくん、ワタシのことなんて気にかけてもいなかったんだ。あんな彼女がいるんだもんね。そう言えば、ゆうきくんは年上にモテそうなタイプだ。
公園のベンチに座り、当てもなくうろつく鳩をじっと眺めていたら、自然と涙が流れてきた。それに喉の奥がイガイガして言葉が出ない。ワタシは一体どうすればいいのさ。
帰り道。道端にくたびれた占いのテントが出ていた。え、「店じまいにつきおひとり様500円。未来はなんでも予言できます」だって? ごま塩頭のこの占いのおじさんに、ワタシの未来、ゆうきくんとどうなるのかを占ってもらおう。
「大好きな男の子に彼女がいるみたいなんです。悔しくて悲しくて、自分が惨めでどうしようもないんです。ワタシ、その子に付き合ってもらえるでしょうか」
占い師は待ってましたと口を開いた。
「それは苦しいだろうね。未来を占うと、その子はその彼女と結ばれるな。だけど大丈夫。その子に彼女がいるというのは現在のこと、過去はダメだが未来はいくらでも変えられる。それにはあなた自身が変わることだ。そうして今の彼女に勝てばいい」
ああそうか。ここで諦める必要なんてないんだ。魅力あふれるワタシになって、ゆうきくんを振り向かせればいい。だけど、そんなことできるの?
「できる。はい500円」
ワタシはなんだかできる気がしてきた。この占い師さんの言うことは正しい。他人は変えられないけど自分は変えられる。そうしたら未来も変わる。なんて感動的な言葉なんだ。ワタシは頑張るぞ。
その日の夜、ゆうきと年上美人は家族と食卓を囲んでいた。「姉ちゃん、この次に帰ってくるのはいつ?」「うん、今レポートやら卒論の作成で忙しいんだ。年末かな。ところでゆうき、彼女いるの?」「うん、ちょっと気になる子はいるよ」「ふうん、どんな子?」「漫画のヒロインと同じ名前なんだけどね」「へえ」
ワタシは家に帰ってよく考えた。あの占い師さん、未来はなんでも予言できますって言ってた。それに未来は変えられますって。あれ? でも予言した後、未来が変わっちゃったら予言は外れちゃうじゃん。矛盾してるよ占い師さん。予言できるなら未来は変わっちゃいけない。だとすれば、予言通りゆうきくんはあの美人と結ばれる。未来が簡単に変えられるなんて、あなたの言葉、信じられなくなった。ワタシに未来なんて変えられないよ。なんだか、また泣けてきた。
寝室ではみなみの両親が語らっていた。
「みなみ、部屋で泣いてるみたい」
「おおかた悲しいドラマでもみたんだろう。あいつはすぐに感情移入するからな。ちょっと寝ればすぐ治るさ」
ワタシは布団の中でつぶやいたよ。「未来って、どうやって決まるんだろう?」
その時だ。心の中で声が聞こえたんだ。
「みなみ、未来には変えられるものもあれば変えられないものもある。でも、何もしなければ何も変わらないんだよ」
……これって神様の声?
そうだよね。変えられると思って動き出す。それしかないんだ。私、わかったよ
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