第8話 改札にて
たどり着いた駅には煌々と明かりが灯っていた。毎朝の通学時のように北口から構内に入るも、まるで人の気配がない。それでいて改札はシャッターが閉まるでもなく開いていて、自動改札機や券売機にも電気が通っている。
それこそ普段の駅から文字通り人だけを消し去ったようなその光景は、どこか夢というよりか、世界の裏側に入り込んでしまったような気さえしてくる。
「どうやら間に合ったみたいだね」
パチモンがひょいと前かごから飛び降り、音もなく着地する。それからすすす、と改札に向かって歩き出すものだから「ああ、ちょっと」と呼び止める。
「待ってパチモン、先に自転車停めにいかないと」
ちなみにちゃんと構内に入ったところで自転車からは降りている。周りに誰もいないとはいえ、普段からの習慣で気づいたらそうしていた。
「自転車? それならそのままそこに停めておけばいいんじゃない?」
「そこにって、ここ?」
思わず自転車を押す足が止まる。駅の北口から構内に入り、今いるのは少し離れているとはいえ、改札の真正面だ。今は状況が状況なため私達しかいないが、普段ならばいくら私鉄の各駅停車しか停まらない駅とはいえ、常に多くの人達が行き交う場所である。そんなところに自転車を置いていってしまうというのは、さすがにマズいんじゃなかろうか。
それはなにも、盗まれることを心配してのことではない。もっとシンプルに、私の道徳心がそれを善しとしないのだ。普段ならばしないことなのに誰もいないのをいいことにそれをしてしまうのは、良心の呵責に苛まれるというか、端的に言って、それってズルくない? と思ってしまうのだ。
「駐輪場すぐそこだし、ちょっと行って停めてきちゃうよ。パチモンはそこで待ってて」
中途半端に迷うくらいなら、とパチモンに声をかけ改札とは別方向に歩き出す。駐輪場は南口を出ればすぐだし、そもそも小さな駅なので、その南口自体が目と鼻の先なのである。とはいえ、パチモンに待ってもらっている手前のんびりと歩いているわけにもいかない。そこで駆け足で――とはいかないまでも早足で歩いていく。
駐輪場から戻ると、パチモンは自動改札機の上に座っていた。
「あかねって変なところで真面目だよね」
「え? どういうこと?」
聞き返す私には答えずに、パチモンはくるりと背を向けると改札の向こうに飛び降りる。
「さあ、あかねも早く」
呼ばれるままに改札に向かい、そのまま何の気なしに通り抜けようとしたところ、甲高い警告音とともに勢いよく改札が閉じる。となれば、当然私は立ち止まるしかない。夢の時間であるからして、案外とすんなり通れるのではと思っていたのだが、どうやらそうはいかないらしい。
とりあえず改札の入り口まで戻り考える。
「パチモン、どうしよう?」
さすがに無視して乗り越える、というわけにはいかないだろう。ちなみに普段使っている交通系ICカードは通学時の定期券も兼ねているので、通学用の鞄に入れたままだ。出かけると聞いたときに鞄ごと持ってくればと思うも、今時点で持っていないものをどうこう言っても仕方がない。そもそも、あの時点での私にそこまでの余裕はなかった。
「さすがにこれ、乗り越えちゃったらマズいよね?」
もしかしたらとパチモンに問いかけるも、パチモンはゆっくりと首を横に振る。
「それはちょっとオススメできないかな」
「でも、それを言ったらパチモンだって無賃乗車だよね?」
「僕はいいのさ。なんてったって猫だからね」
思わず「だよね」と言いたくなるような答えに、ただただため息を吐く。とはいえ、本当にどうしよう? 定期がないなら切符を買えばいいんじゃないかと考えたいところだけど、生憎と財布も持ってきていないのだ。それに、仮に持っていたところで券売機でまともに切符が買えるかどうかも怪しいときている。
「ねえパチモン、本当にどうすればいいのかな?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます