第23話

そういえば、真紀は「よくしてもらっている女性」と言っていたが若い女の子だとも、友達だとも言わなかった。


真紀が天国から肩をすくめ笑って舌を出しているように思えた。


高史にそういうイメージがふと浮かんだのだ。


「そうだよ、真紀ちゃんとは天国で隣人同士さ。一人もんが借りられる部屋というのがあってね。マンションだよ。でも、天国といっても女の子の一人住まいっていうのは心配になるものでね。色々おせっかいをさせてもらっているよ」


「じゃあ、昨日真紀ちゃんが着ていた青いワンピース……親しい人に選んでもらったと言っていましたが」

 

高史は探りを入れる。ははっ、と凛子は声を出して笑った。


「地上で友達ができて海へ行くっていうからね、私が選んだのさ。昨日はとても楽しかったようだよ。いつも暗かったあの子の表情が、ここ二日で見違えるくらいになってね。真紀ちゃんは既に私の娘みたいなもんさ。娘がいるという気持ちを天国で味わえるなんて思ってなかった。それでね」

 

凛子は誠を見つめる。


「『イチカワマコト』という人がいるので、息子かどうかを確かめるために会ってみないかって。言われたら確かめたくなるじゃない」

 

真紀が誠に反応したのは、好みのタイプだからではなかった。もともと凛子から天国で誠のことをちらほら聞いており、フルネームが一致したためについ見つめてしまったのだろう。誠はそういうことかとがっかりしている。


凛子は誠が中学一年生の時に病気で亡くなったという。これまで誠の口からそういうことを聞いたことはなかった。


「ところでなんで椅子に座れるんだよ。真紀ちゃんも座っていたけど。物体に触れられないのに、椅子には座れるの」


「触れられるものと触れられないものがあってね。生きた人間と食べ物は絶対に触れられないっていう決まりがあるんだけど、こういう無機質なものは平気なんだよ」

 

天の梯子をとりだし机に置く。通り抜けることはなかった。


「なんで」

 

なんの影響もないからだという。それにお盆の時などにご先祖が帰るとき、立たせたままではいけないだろう、という天国側の配慮もあるらしい。


「あなたたちは毎日なにをしているの」

 

メンバーはたじろぐ。本当のことを言ったら怒られるのではないかという動揺も走る。


「母ちゃんこそ、毎日なにをしているの。大体、天国ってどんなところだよ」


「名前のとおり、毎日がパラダイス!」

 

凛子は歌うように両手をあげ、大声で言った。表情は本当に楽しそうだった。 


天国はちゃんと国ごとに別れて存在し、各所に役所があるらしい。


天国と非天国、地獄に各一人、偉い人がいてその側近に看守、そのさらに上に死んだ人間の行動を全て把握している気高く崇高なものが君臨して見守っているのだという。


しかしその崇高なものは姿をあらわすことはなく、人間は人間の中で生前とあまり変わらない生活をしているらしい。

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