第4話
「康宏の気持ちは分かる。しかし両手を常に上に挙げて警戒心を少し解けば、ほら。そこには女がいる。可愛い女かもしれない。好みの女かもしれない。性格のいい子かもしれない。何年かのちに偶然出会って、あの時間にあの電車に乗っていましたよね、なんて話もできるかもしれない」
「そんな夢みたいな話があるかよ。あの合コンを思い出せ」
誠の言葉に高史は思い返した。二年の時の合コンでは、十五対十五という大人数で行われたが先輩達の顔をたてなければという強迫観念みたいなものがあって、女子と話すことがほとんどできなかった。
女子と話していたのはほとんど三、四年生の先輩だ。
幼い頃からなんとなく刷り込まれている縦社会の縮図は、日本であればどんな瑣末な場面でも現れてしまう。
だが気遣いも虚しく合コンは失敗に終わった。
先輩達は女性陣のノリについていけず、なんとか話を合わせても空回った。そのうち女性陣はしらけはじめた。
高史は先輩達が露骨に相手にしていなかった女子二人となんとか会話をしてアドレスを交換した。帰ったあとすぐにメールを送ってみたものの、返信はまるで来なかった。
二年経った今連絡を取ってみたが、完全無視だ。
「もう、女なら誰でもいい気持ちにもなってきた。この際、河童でも妖怪でも」
誠は部室内をうろうろしはじめる。
「いやいや。それはビジュアル的にどうなんだ」
慎一が返す。誠は反論する。
「ビジュアル気にしていたら、それこそ男じゃない。おまえ、紳士を徹底させると言ったじゃないか」
「それはあくまで人間の話だ」
二人の会話をよそに、合コンでしらけた原因はなんだろうかと高史は考える。
女性陣が求めるニーズに応えきれていなかったのだろうか。いや、ニーズに応えるなんていう技術は客商売ではないのだからする必要はない。というか自分たちには高度すぎてできない。
女子と接触をしてもその場限りで終わらない方法はなにかないものだろうか。
女子を楽しませなおかつ……いや。そもそも楽しませることもできないのだ。
楽しませるにはある程度の慣れも必要なのかもしれない。そして慣れていないために、先輩達は女子の心を掴むことができなかった。
慣れておらず自分に自信がないくせに、好みによって態度は露骨。
それがよくなかったのだ。慎一の「紳士であれ」、というのはあの時の先輩たちから学んだ教訓が一つ、無意識に口から出たのかもしれない。
「……俺ら、親以外の女性と会話した時間が圧倒的に少ないから慣れていないんだよ。それでまた合コンをやろうなんて考えても絶対失敗する。この大学の超イケメン達からだって、俺たちは相手にされていないしな」
「超イケメン達は、三割の女の子になんのためらいもなく話しかけているもんな。確かに慣れはすげえよ」
慎一が言う。慎一よりもさらに外見のカッコイイ男子達は、圧倒的少数の女子と自然に会話をしている。彼らに近づこうと頑張って声をかけてみても、男女どちらからも一瞥されて終わる。
超イケメンの男子学生たちとは、四年をかけてもほとんどコミュニケーションがとれていない。
三割の女子は、ほとんどが超イケメンの縄張りの中にあり、彼らをとおして親しくなることもできない。なんであれ、女と接触しないことには始まらない。
「隣のミステリー同好会はどうだろうか。ミステリーというだけで話題もできるし、ちょっと詳しくなったら女の子からスゴイとか言われるかも。確か女子も一人いなかったか? 部室に出入りしているのを見たことがあるぞ。隣人のよしみで誰か紹介してもらえるかな」
「冗談じゃない。お前らマジで下品だな」
再びミステリー同好会から男子学生の声。高史は黙った。
隣人同士、話はいつも筒抜けだ。隣はいつも静かで、稀にリアリティがどうの、と熱い議論が交わされている時もある。
今日は静かなのでミステリー小説でも読んでいるのだろう。
「慣れが必要だといってもどうやって慣らすんだぁ」
翔が頬杖をつく。慎一が閃いた表情で言う。
「リアル女子と接触するまえに、幽霊の女子捕まえて合コンして模擬演習するっていうのはどうよ」
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