第2話 姉妹の縁談

「ルビーのお相手のスフェーン様は公爵令息なの。とってもご優秀なんですって」


 私たちが年頃になると縁談が持ち上がりました。

 ルビーは私より一歳年下ですが、私の縁談が持ち上がると、両親は同時にルビーの縁談も探し始めて、あちこちに釣り書きを送りました。


 もちろんルビーの縁談は、爵位を継げる嫡子との縁談で、私の縁談の相手より格上の相手ばかりでした。


「結婚したらルビーは公爵夫人になるの」


 ルビーは縁談の相手を私に自慢しました。


「そう。良かったわね」


 私は荒野のスナギツネのような虚無の表情でルビーに相槌を打ちました。


「お姉様の縁談のお相手のアルマンディン様は伯爵家の三男なんですってね。私のお相手スフェーン様のほうが格上ね。スフェーン様は公爵家の嫡子ですもの」

「そうね」

「スフェーン様は王子様とも仲が良いんですって。結婚したらルビーも王子様とお友達よ!」

「良かったわね」


 私はコランダム子爵家の嫡子なので、ゆくゆくはコランダム女子爵となります。

 私の夫はコランダム子爵家の婿養子となるので、身分の釣り合いが取れる家のご子息ならそれで良いのです。


 ルビーは嫁ぐ立場なので、お相手の爵位は高ければ高いほど良いのでしょうけれど。


 ですが……。

 ある程度は予想できたことですが……。


 ルビーの、公爵令息スフェーン様との縁談は、破談になりました。



 ◆



 スフェーン様との縁談が破談になった後も、ルビーは何件もの有力貴族の子息とお見合いをしました。

 それらは片っ端から破談になりました。


 ルビーは美少女です。

 そのため絵姿を添えた釣り書きを送れば良い返事が来ます。

 絵姿が実物より良く描かれていることは常ですが、華やかなストロベリー・ブロンドに珍しい紅色の瞳の天使のような美少女、ルビーの絵姿に、大抵の者は興味を持つのです。


 ですが、顔合わせをした途端に破談になってしまいます。


 最近は、釣り書きを送った時点で断りの返事が来ます。


 何件ものお見合いをして、あちこちの有力な家にルビーの為人ひととなりをお披露目してしまったせいでしょう。

 ご夫人たちのお茶会などでルビーのことが話題になっているかもしれません。


 最近はルビーの縁談の相手は伯爵家以下の子息にグレードダウンされています。

 ルビーは子爵家の娘ですから、伯爵家以下の家なら身分の釣り合う相手です。

 それが釣り書きを送った時点で断られるということは、おそらく、先方はルビーのことをご存知なのでしょう。


 ルビーがどういう人物かを知っていたら、ルビーを女主人にと望む家があるとは思えませんもの……。


「サフィールお嬢様、ガーネット伯爵令息よりお花が届いております」

「まあ!」


 その一方で、私の縁談はすんなりと決まりました。

 私はガーネット伯爵家の三男アルマンディン・ガーネット様と婚約しました。


 婚約者となったアルマンディン様は私と同い年で、優しくてとても良い人です。


 私は、家族が異常なので……。

 もしかしたら、普通の人であるだけで、優しくて良い人に思えてしまうのかもしれません。

 ですが好感が持てる人と婚約できたことは幸運だと思います。


 私はアルマンディン様に会うことが楽しみでなりません。

 彼に会い、彼と話をすると、心が浮き立ちます。

 私はアルマンディン様と結婚できる日を心待ちにしています。


 ですが破談が続いているルビーを刺激しないように、婚約者との仲が良好であることを表に出さないように気を付けました。

 ルビーは私が大切にしているものや気に入っているものを奪いたくなるようですので、私は好きなものは隠すようになっていました。


 家族の食卓で、婚約者とは上手く行っているのかと両親に話題を振られても、「問題はありません」と必要最小限の事務的な答えを返すことにしています。


 ですがついにルビーに見つかってしまいました。

 アルマンディン様が私にと、贈ってくれたブローチが。


「お姉様ずるい! そのブローチちょうだい!」

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