転生物の元の体の持ち主ってどうしてんだろってありふれた話

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転生物の元の体の持ち主ってどうしてんだろってありふれた話

 俺の名前は〇〇、頭と顔が悪いせいで家族から嫌われ、それを理由にド田舎にある全寮制の中高一貫男子校に入らされる事となり、更に質の悪い事にそこで苛烈ないじめを受け、堪らず逃げ出したら森の中で野生のトラックに跳ねられて死んだ哀れな男だ。


 しかし悪い事ばかりでもない、そんな俺を儚んでくれたのか女神様が異世界に転生させてくれる事になった。


 どんな世界がいいかというので「可愛くてエッチで美人でSな女の子に囲まれて優しく甘やかされながら生きていきたい」と願ったら、「丁度ええのあるよ」と男女比が1:100位の女性はみんな美人でエッチな甘々な世界に転生させて貰った。


 転生したらありとあらゆる物が様変わりした。まず俺の姿は元の世界と違い所謂可愛い系のショタっ子になり、俺に厳しい家族は愛情溢れた優しく美しい家族になった。

 俺が通ってた全寮制の男子校はそのままほぼ女子校になった、血気盛んで汚くて殺伐とした学園はまるで(ちょっとエッチなタイプの)日常系百合アニメのような綺麗でキャッキャウフフとした優しい空間になった。

 俺を虐めたりパシってきた先輩は俺を甘えさせてくれるお姉さま兼女王様になり、俺を虐めたりバカにしてきた同級生やクラスメイトは甘えさせてくれる良き友人兼S女となり、俺を虐めたり舐めてきた下級生や後輩は甘えてきたり甘えさせてくれる子犬兼メスガキになった。


 更に俺は女神様により特別な力を与えられている。この身体は正直俺でも見惚れる程の華奢な美少年にも関わらず、非常に強い体力スタミナを備えているのだ。

 この世界では前の世界とは逆で、男は基本的に性欲が薄く逆に女性の方が性欲が高い、それと前述したチート、この二つの要因により毎日乾く間もないというリア充イチャラブMハーレムライフを満喫させてもらっている。


 ……誰が見ても順風満帆、100人に100人が羨ましい人生だというだろう。しかし、最近俺はを抱いていた、それは誰にも相談できる話では無く、喉に刺さった小骨のように俺を悩ませていた。


 そんな日々を送っていると、ある日女神様が俺の様子を見にやってきた


 女神「やぁやぁ俺君、どうやね調子は」

 俺「あ、女神様!!おかげさまで最高の人生を送らせてもらってます!」

 女神「そりゃあよかった、偶に転生先の世界が肌に合わん人いるからね、そしたらまたトラックにひかせなきゃいけない所だったよ、はっはっは」


 流石に神だけあって倫理観がちょっとヤバい気がする


 女神「まぁ調子よさそうで良かったよ、じゃあ帰るね」

 俺「あ、ちょっと質問いいですか?」

 女神「……?ええよ?」


 折角なので俺はずっと気になっていたことを質問する事にした。


 俺「……その、元の世界に戻る事って出来ますか?」

 女神「……………………」


 数秒の沈黙


 女神「ええええええええええええええ!?なんで!?何か不満だったぁ!?」

 俺「いえいえいえ!この世界に不満なんてないです最高です!!ただ……」

 女神「ただ?」

 俺「元の身体の持ち主の事を考えてしまうと……」


 そう、”元の体の持ち主の魂はどうなったか?”それが俺の懸念点であった。

 俺がこの世界に転生された時身体は病院にあった、なんでもこの体の本来の持ち主もほぼ死にかけの状態だったらしい。


 俺「最初の頃は特に気にしませんでした、俺が目覚めた事に喜んでくれる両親や姉妹達、学校の皆の反応とか、俺がガキの頃からずっと欲しかった物で本当に嬉しかったです」

 女神「……」

 俺「性に前向きにな俺に彼女達が大喜びしてくれたのも本当に嬉しかった、だって前はそれどころか困ってたり転んだりした女性に声かけただけで睨まれたり逃げられたり叫ばれたり泣かれたりしてましたから。」


 俺「でも段々恐ろしくなってきたんです、この身体の元の持ち主は多分性欲のない男でした、いつの日かあの優しい家族から『誰だお前は』って言われるんじゃないか?」


 俺「俺は本当は転生なんてするべきじゃなかったんじゃ無いか?元の世界の俺の不幸は不幸なんかじゃなくて俺が乗り越えるべき試練だったんじゃないか?そう思えてきてしまって……仕方ないんです。」


 ……俺は心中に抱えている本音を全てうち明かした、女神様はどういうだろうか?怒るだろうか?不安で心中一杯だったが、しかし女神様は


 女神「なんだそんな事か」


と俺の悩みなんかどうでもいい事だと言わんばかりにアッサリとした反応だった。



 女神「その身体の持ち主だった男、つまり”彼”は”君”の世界に転生したんだよ」

 俺「え?」


 あまりにもあっけらかんと言う女神様に二の句を告げれない俺に彼女は淡々と説明しだした。


 俺「え、そ、そんな事していいんですか!?」

 女神「何を今更。そもそも論別次元に魂を転送させてる時点で人間の倫理的には大問題だし、存在しない筈の肉体が存在してる事の方がよっぽど神の倫理や世界の均衡的にはやべー事だよ。あるオンラインゲームプレイヤーが別のゲームを遊ぶのはなんら倫理的に問題は無いけど、元のゲームキャラクターデータが他のゲームにあったら大問題に繋がる。」

 俺「ち、ちょっとよく分からないんですけど何となく分かりました……、あ、でも俺のチートはいいんですか?」

 女神「あくまでも君がチートと考えてる物はこの世界の人間が普通に持ちうる能力だよ、ただの才能に過ぎない。新規加入者にちょっとしたボーナスを出してるだけでゲームバランスが崩壊するもんでもないし、それに偶に公式チートを出す運営もある、気にする事ではない。」

 

 あまりよく分からない喩えを連続しながらニコリと笑って言う女神さまに少し毒気は抜かれてしまったが、しかしやはりどうにも納得できない。


 俺「それはわかりましたけど、やっぱ俺の世界に転生させるというのは気の毒なような……」


 先ほども説明したが俺の元居た世界はこの世の地獄といっても差し支えない。家族は敵だし学校は世紀末な上に女っけが無い、女と接する機会があっても老いも若いも俺を毛嫌いする。……自分の不幸を元の体の持ち主に押し付けてしまったみたいで申し訳ない。本当は俺が乗り越えるべき試練なんじゃないか……、そう思えて仕方ないのは変わらない。


 女神「いやむしろ彼も君同様最高に満喫してるから気にしなくてええよ」

 俺「なんで?」


 あの世界のどこに楽しめる要素があるのかサッパリとわからず俺は質問した、彼女はケラケラ笑って俺に説明してくれる。


 女神「だからさ、君にとって前の世界がそうだったように彼にとってこの世界が地獄だったからだよ」

 俺「地獄?この世界楽園が?」


 考えてもみなかった彼の悩み、一体何が不満だったのか……?女神様は吞気にこう説明してくれた。


 女神「彼は女嫌いで、ホモで、しかも『嫌がるクソ生意気な野郎をマゾメス堕ちさせるのが生き甲斐』ってドS人間だったんだよ。」


 俺「」


 女神「家族にそんな悩み話せるわけないし、まぐわおうにも男なんていないし数少ない男は殆ど皆いい奴だ。女嫌いと言っても別に不幸になって欲しい訳でもない、こういう世界だと我慢しようにも女達は全員自分よりもクソ強くS気味で、まぁずっと息苦しさを感じていたそうだ。」

 俺「」

 女神「転生して君の身体になって滅茶苦茶喜んでたよ。『このニキビまるけで潰れたカエルみたいな顔!前の身体よりも大きい上に汚くてだらしない体系!こ、これが本当に僕なの!?最高じゃん!!』って」

 俺「」

 女神「君は自覚なかったようだけど、体格的には前の世界でも優れていた方だったんだよ、太れるってのは才能で、筋トレしたらすぐにメキメキと頭角を現して学校中の悪をのしていったよ。あと彼には転生ついでにどんな人間も一発で気持ちよくメス堕ちさせるマジカル〇〇〇ってチートも与えたからね、今頃君を虐めてた連中全員元君のホモ奴隷になってるよ。」

 俺「」

 女神「『クズばっかだから痛めつけても良心が痛まないし最高!”わからせ”が捗る捗る♪あ、そうだ、あいつら全員ウリに出しちまおう』とかも言ってたかな」

 俺「」

 女神「男女比がほぼ同じってのは不満だったみたいだけど、『まぁあの毒母親の前で糞親父をメス堕ち寝取りするのも悪くないね』って息巻いてたよ」

 俺「」

 女神「因みに彼も今同じ質問をしてるけど、今の君と全く同じ反応してるよ。2人とも優しいよね、素晴らしいことだ。」

 俺「」

 女神「まぁこれは神からの信託と思って聞いて欲しいんだけどね、2人とももう元の人生世界に戻った所でどうもならないというか、前よりも不幸になるだけだから絶対やめた方が良いよ、あまりにも世界が変わりすぎた。」

 俺「」

 女神「後ね、特定の誰かが乗り越えるべき試練なんてこの世に存在しないよ、そんなもんはやれる奴がやればいい、敏腕経営者だって休みが必要なように、幸せを享受出来る時に享受しないのも不敬というか失礼というもんだよ。そういうわけだ、安心して今の人生を謳歌しなさい。」


おわれ



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