第40話 特別……。そっか、そっか!

「で、話ってなんだよ?」


 某7個集めると願いが叶うマンガで、主人公格キャラ2人が融合する奥義のポーズみたいに手を組み合って引っ張り合って、身体を伸ばし合いながら俺は虎嶺に尋ねた。


「まぁ、そんな焦るな」


 随分と余裕たっぷりという様子だ。


 ふむ。

 前回俺の受け技で負傷していた奴なのに、どこからその根拠なき自信が生まれるんだ?


 こういう時には。


「いいから、とっとと話せよ。き、気になるだろが……」


 口調は強がっているが、内心はビクついてるという感じの演技で返した。


「ふっ。では、話をしてやろう」


 俺の小市民的なリアクションに気を良くしたのか、気分良く虎嶺が話し始める。


「今回のクラス入れ替え戦についてだが、棄権するのが身のためだぞ」

「な、何でだよ……」


「それは俺の口からは言えんな……。だが、お前も名家の寝室ねむろの家の噂位は聞いたことがあるだろう? うちには、家のために裏で色々と非合法で動く闇の者たちだいる」


 ぶっふぉ⁉


 こちらは既に大分前に、母親経由でその辺の情報は入手していたのだが、自分で言うかね普通……。


 非合法な手を使っているって、名家の人間本人が口にしたら、それこそ強請りや脅迫のネタに使われちゃうだろ。


 この辺は、名家の人間って言ってもガキだな。

 闇の者たちって、かっけぇっすね。


 って、内心爆笑してたけど、俺もよく考えたらこの闇の者たちと同類なのでは⁉

 非合法に銃とか所持しちゃってるし。



 え、ウソ……ちょっと凹むんだけど……。


「ふふん。今更ながら、誰を敵に回したのか分かってきたようだな。先ほどの威勢はどうした?」


 どうやら、自分が闇の者()かもしれない事に凹んでいる様子を見て、俺が寝室家の闇の力にビビっていると勘違いしたらしい虎嶺。


 更に機嫌よく話を続ける。


「まぁ、俺も名家の寝室家の人間だ。お前とて、この国にとっては貴重な男子。それ故、温情をくれてやる」


 柔軟体操は、地面に座って股を開き、前屈をするのを補助者が後ろから押すのに移っている。

 俺が前屈で、虎嶺が俺の背中を押す形だ。


 一応、虎嶺の方にも後ろ暗い話という認識はあるせいか、声が小声で、耳元で囁くように話を続けてくる。


 生温かい吐息が耳元に当たってキモい。


「お前、今後は引きこもって学校に来るな」

「はい?」


 虎嶺からの提案というか命令は、随分とストレートなものだった。


「こうすれば、クラス入れ替え戦で3組の女共が勝とうが負けようが関係ない。3組が2組に負けたら現状維持のまま。仮に3組がクラス入れ替え戦で2組に勝ったとしても、奴らが得る物はない」


 悦に入った虎嶺は、自分の計画をペラペラと喋る。


「2組の男子が今後ずっと不在ならば、クラスの女共もクラス対抗戦を挑む理由がなくなる。その時になってから俺にすり寄ってくるクラスの女共はボロ雑巾のように使い倒して捨ててやる」


 クククッと笑う虎嶺は、最早クラス入れ替え戦の勝敗に左右されずに、事は己の思い通りであることを誇示してくる。


 今は前屈して運動グラウンドの地面を見ているので虎嶺の顔は見れないが、きっとドヤ顔していることだろう。


 だが、虎嶺の計画には穴がある。


「いや、俺学校は皆勤賞目指してるから」

「は?」


 交代して俺が押し役になると、押される側の虎嶺が呆けた声を発した。


「ほら、前屈なんだからこっち見るな。怪しまれて会話を聞かれたくないだろが」

「んが⁉」


 そう言って、俺は後ろから虎嶺の背中を押してやる。


 身体硬いなこいつ。

 ちゃんと橘知己みたいに柔軟運動しとけよ。


「さっき何て言った⁉ 俺には、こちらの指示を無視して学校に来ると言っていたように聞こえたが?」

「その意味で合ってるよ。俺、学校好きなんだよね」


 前世での社畜生活で、もう戻れないと懐かしむしか出来ないと思っていた学生生活を、こうしてまた謳歌できているのだ。


 それを手放すなんて選択肢はない。


「お前はそれなりに頭はあるのかと思ったが、どうやら俺の見込み違いだったようだな。じゃあ、はっきり言ってやろう。お前が学校に来たら、命はない」


 言っちゃったよ……。

 この発言だけで、もう完全にアウトだよ。


 例え、自分で直接手を下さなくてもだ。


「なら、俺もなりふり構わずになるけど」


 この世界の名家がなんぼのもんじゃい。

 所詮、ハニ学の公式設定資料にも出てこない脇役以下がよぉ。


 俺の邪魔をすんなよ。


「ふん、残念だな。この社会から貴重な男が一人減ってしまうなんてな」


「よ~し。柔軟体操は終了! 4人だから今日の体育の授業は、ソフトテニスでダブルスやるぞ! ダブルス!」


 虎嶺が吐き捨てた所で、ちょうど芦名先生が号令をかける。

 ああ、結構な時間虎嶺と喋ってたなと、俺は腕に付けたスポーツウォッチを見やる。


「次は、ボクが知己くんとペアだからね!」


 と同時に、晴飛が先約だとばかりに俺の腕を抱え込んで確保にかかる。


「なんだ晴飛。そんなに先生とペアなのがイヤだったのか?」

「だってあの人、触り方が心なしかヤラシイんだもん……」


 そう言いながら、うんざりしたように晴飛が横目で芦名先生の方を見やる。

 どうやら芦名先生は、あふれ出る性欲を抑えきれなかった様子。


 前世で言ったら、男性エロ体育教師が可愛い女子生徒の身体に触れながら柔軟体操をするようなもんだからな。


 しかし、ハニ学の教師は共学の学校の教師なだけあって、男子生徒に対して劣情をもよおさない克己心の強い者が選抜されているはずだが、実態はこの有様である。


 それか、訓練された共学校教師ですら、晴飛を前にしたら我を忘れてしまうのか。


「晴飛がイヤなら、体育教師を代わってもらうか?」


 多分、男子生徒、ましてや期待の星の1組男子である晴飛が言えば、担当教諭の首なんて簡単にすげ代わるだろう。


「ううん……。今後は、体育の時は知己くんがペアになってくれれば、それでいい……」


 ふーん。


 晴飛は流石は主人公様なだけあって、女性教師に身体を触れられても、そこまでの嫌悪感情は出ないんだな。


「分かった分かった。今日は、虎嶺に話があったから、ちょっと付き合っただけだよ」


「ボク以外の男の子も下の名前で呼ぶんだ……」


 ───ええ⁉ そこ気になる所?


 とっとと鎮火させようとしたのに、何だかペア決めで虎嶺を選んでから、ご機嫌斜めだな晴飛は。


 いかん、主人公様が何故かお怒りだ。

 ここは釈明をせねば。


「虎嶺は晴飛みたいに親しみから来る下の名前呼びじゃないよ。アイツとはいざこざがあって色々と無礼な奴だから、俺も同じように無礼な態度で返してるだけ。呼び捨てはその一環だよ。晴飛とは全然違う意味なの」


「違う……意味?」

「そっ! 晴飛だけは特別」


 事実、晴飛はこの世界の主人公様なのだ。


 こちらとしては、サポート友人キャラとして晴飛の一挙手一投足に気を回さねばならないのだから、特別も特別だ。


「特別……。そっか、そっか! そういう事なら良いよ♪」

「お、おう……」


 何だか、浮気男が本命彼女に対して釈明してるみたいだな……。

 取り敢えず晴飛のご機嫌が直ってよかった。


 しかし、晴飛って思った以上に不安定な部分も垣間見せるよな。


 その点は、ゲームのプレイングキャラでは出てこない部分だ。

 この世界では、晴飛は一人の人間なんだから、当たり前と言えば当たり前だけど。



 ───そういう意味では、俺がここで退場する訳にはいかないな……。



 機嫌を直してスキップしながらテニスコートに向かう晴飛の後姿を見ながら、俺は今後やるべき事に頭を巡らすのであった。



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さて、そろそろ1章も佳境へ向けて動き出しましたね。


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