第39話 くぅーーん……

「よっしゃ、体育だ体育~」


 今日は、ハニ学に入学して初めての体育の授業だ。


 この世界でも体育は男子と女子は基本的に別だ。

 単純に男女で体格差があるっていうのと、他にもこの男女比1:99貞操逆転世界ならではの問題があって。


 ───しかし、男の俺がコソコソと更衣室で着替えないとなんてな。


 更衣室へ向かう道すがら、俺は先ほどの情景を思い出して、乾いた笑いをこぼしていた。


 前世の世界では、体操着に着替える時には男子なんて教室でパパッと着替えたりする奴もいたもんだが、ここは貞操逆転世界である。


 となると、どうなるかというと、そうだね。

 女子たちが、教室で着替えだすんだね。


 それも、体育の前の授業が終わった瞬間に、クラスの女子の何人かが制服の上をたくし上げ始めたから、あわてて自分の体操着をひっつかんで教室を後にした次第である。


 あれ、絶対わざとだと思うんだ。


 世の中には、自分のを異性に見せて興奮する人がいるからな。

 前世では男女逆のパターンは珍しいけど。


 今回は驚いてつい恥ずかしがって教室をすぐに出てきちゃったけど、今度はガン見しよう。


「おっす、晴飛」


 男子更衣室に入室すると、すでに先客がいた。


「わわわ⁉ 知己くん⁉」


 ちょうど体操着を着終わった直後だったらしい晴飛が、あわてて体操着の上衣の裾を下へ力いっぱい、引き下ろしている。


 そんな雑に扱うと、新品の体操着なのに伸びちゃうぞ。


「おう。にしても、随分早いな晴飛は」

「ハァハァ……。う、うん。そうだね……。ほら、知己くんとの体育が楽しみだったからさ!」


 更衣室まで走って来たのか、晴飛の呼吸は乱れていた。

 体育の前にそんな運動して大丈夫か?


「体育は他クラスと合同授業だもんな。とは言え、芸術科目は晴飛とは別だし」


 体育が合同授業じゃなかったら、男子はボッチ授業になっちゃうからな。

 体育で教師と1対1は流石にキツイ。


 何か、友達が居ない子みたいで。


「うん。だから知己くんとの授業は楽しみだったんだ」

「俺もだよ。そういや1組の教室では女の子たちが急に着替えたりしなかったか? 2組ではさ~」


「ちょ、ちょ、ちょっと!?  何をナチュラルに脱いで⁉」

「そりゃ体育だし、ここ更衣室だし、服を脱ぐのは当然だろ」


 何を当たり前のことを言ってんだ晴飛は?


「そ、そ、そうだよね……。ボクったら変な事言っちゃって……。そ、それにしても知己くんの身体、筋肉すごいね……」


 真っ赤になった顔を手で隠しつつも、指の間からチラチラとこちらを窺い見る晴飛。


 その視線は、俺の腹筋のシックスパックに釘付けだ。


「そうだろ~? これでも鍛えてるんだよ」


 筋肉というのは、むしろ同性の方が興味持つからな。

 女性のお化粧やネイルみたいなもんだ。


「何のために、そんなに鍛えてるの?」


 お? それはトレーニーに聞いちゃいけない質問だぞ。

 前世で言えば、女性のネイル見て、『料理する時に邪魔そう』並みに言ってはいけないNGワードだ。


 う~ん。じゃあ、ここは。


「お前を護るためだよ」

「……え?」


 先ほどまでのおちゃらけた態度を急変させ、真剣な眼差しを向ける。

 この世界での俺は、どうやら晴飛を守護する事なので、本気の想いを視線に乗せる。


 その本気の視線に見つめられた晴飛は、虚をつかれたのか固まり、俺から目線を外せなくなっている。


「それに、この腕ならお前をお姫様抱っこする事もできるしな」

「知己くん……」


 調子に乗って晴飛をアゴくいすると、晴飛はトロンと溶けた目で俺を見上げる。

 そんな晴飛に、俺は……。


「むにゅ⁉」

「ってな感じで口説くと女の子はイチコロだぞ。だから筋トレはいいぞ~」


 口元を俺につままれてアヒル口になった晴飛に、俺は笑いかける。


 これにて、女を口説くレクチャーは完了である。


「も……、もうっ! 知己くんったら、ボクのこと揶揄って! もうっ! もうっ‼」

「アハハ! 痛いっての晴飛」


 涙目ふくれっ面で、俺の胸の辺りをポカポカ殴ってくる晴飛。

 痛いと言ってるが、胸筋も鍛えているのでノーダメである。


 やはり筋トレはすべてを解決するのである。




 ◇◇◇◆◇◇◇




「1年生男子の体育を担当する芦名あしな麻央まおだ。よろしくな」


 よく日焼けして、黒髪ベリーショートの芦名先生が、体育の授業の冒頭に自己紹介をしてくれる。

 ニカッと笑うボーイッシュな先生だ。


 男子生徒相手という事で、こういう大らかで、女っ気の薄い人を担当に選定しているのかもしれない。


「それにしても、今年の1年生は3人も授業に出てくれて先生嬉しいぞ。体育は男子は全員見学なんて学年もあるからな」


 ええ……。

 男子の体育なのに、その男子生徒が全員見学じゃあ、授業が成立しないのでは?


「男子生徒が全員見学でも授業だけは行わなくてはならないから、一人演技みたいに授業をしなきゃいけなくてな。あれは正直、辛かったぞワッハッハ!」


 芦名先生は明るく言ってるけど、教師が一人走り回ってる体育の授業をただ見ている男子生徒という図式は、具体的にイメージするとかなり辛いな。

 体育の授業は出来るだけ休まないでおこう。


 それにしても……。



 ───まさか、こいつが体育に参加するとはな。



 そう思いながら、俺はチラリと横に胡坐をかいて地面に座っている3組男子の寝室虎嶺の方を見やる。


 チラッと流した視線でバッチリと虎嶺と目が合う。

 虎嶺はニヤニヤしながら俺の方を眺めている。


 こっち見てないで先生の話をちゃんと聞けや。

 あと、体育の時は胡坐じゃなくて体育座りだろうが。


「じゃあ、まずは2人組になって柔軟体操だ」

「知己くん、一緒に「おい、橘。俺と組め。話もあるからな」


 晴飛が声を掛けてくるのを遮るように、3組の虎嶺が俺に声をかけてきた。


「なんだ虎嶺。この間のいざこざでケガしてないのか?体育は見学じゃないのか?」


「ほざけ。庶民が」


 軽口を叩き合いつつ、俺は思考を巡らせる。


 本来なら、第一声で命令口調な奴と体育でペアになるなんてお断りである。


 だが、こいつの言う話というのも気になる。

 このニヤニヤ顔を見るに、恐らくは話したい内容とはクラス入れ替え戦についてだろう。


 なら、何かしら口を滑らせてくれるのに期待するか。それくらいしか、俺がクラスに貢献できる所も無さそうだし。


 そう思いながら、俺は腕時計を撫でた。


「まぁ、いっか。じゃあ俺は虎嶺と組むから……」


 と、虎嶺の背中に隠れてしまう形になった晴飛に声をかけるが。


「くぅーーん……」


 まるで捨てられた子犬のように晴飛は涙目でこちらを見てくる。


「そんな寂しそうな顔すんなよ晴飛……」


 なに、この罪悪感……。

『2人組作って~』は、よく1人あぶれる恐怖が語られがちだが、こうやって三角関係で奪い合いをされる側も心が痛いのだ。


 自分が選ばなかった方がボッチになっちゃうから。


「ほら。観音崎は先生とやろう!グフフ……。男子生徒と柔軟体操……。積年の夢がついに……」


 なんか芦名先生が妖しいこと言って晴飛を引っ張っていく際も、晴飛はこちらに目で訴えかけてきていたが、俺は無視するしかなかった。


 ごめん晴飛。


 俺、お前の事、守れなかったよ……。




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ぼっち晴飛かわいそう。


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