第4話

『004』


 荷物もまとめて、多くの荷物と一緒に馬車に乗るときでした。



 そこへ伯爵令嬢のレイチェルがいた。



(レイチェル令嬢です。なぜここに?)



 エマの代わりにユリウス王子と婚約した令嬢のレイチェル。



「あら、エマ、出発ですかね」



「これから辺境のヘムステルダム町に出発します」



「残念ですわエマとお別れですもの。永遠にお別れでしょうし、クローゼ辺境伯は冷血で有名な男ですから、エマは大変でしょうね。でも安心してくださいね、ユリウス王子は私が幸せにしますからね」



「そうですか、幸せに。レイチェルはクローゼ辺境伯をご存じで?」



 レイチェルはクローゼ辺境伯を知っている素振りをする。



(わざわざ、私の出発を見に来て、それを言いに来たのなら、迷惑です)



 しかもクローゼ辺境伯をまるで最悪の男みたいな言い方をするのでエマは理由を知りたい。



 もしかしてクローゼ辺境伯を知っているのかしら?



「ええ、知っていますとも。クローゼ辺境伯は王都に来たことがあります。貴族と令嬢の会食パーティーで会った。その時の印象は厳しい冷たい目で、表情はなくて、いっさい笑わない男でしたよ。だから王都ではクローゼ辺境伯は冷血伯爵と呼ばれていたのよ」



「冷血伯爵ですか。私がクローゼと婚約するのが嬉しいみたいですが」



 聞けば聞くほどに心配になるエマ。



 それを言いにくるレイチェルもレイチェル。



(まるで私が冷血な辺境伯と婚約するのが嬉しいみたいな態度です)



 エマが苦しむのを楽しみにしている風な言い方が気になる。



「嬉しいはずはないですよ。本来ならエマがユリウス王子と婚約者だったのですから。だけど私が婚約者となったのはエマが追放、いえ辺境に行くとなったからです。それと王都での疫病人がエマの薬で多くの人が死んだのが原因です」



「あれは信じられない。私の薬でなぜ死んだのか、納得がいってません」



「いい加減にしなさい。多くの人があなたの薬で死んだのは事実。それを認めなさいよ。エマは王都では最悪の薬師と呼ばれている。ユリウス王子はエマと婚約破棄できて良かったのです」



「私は薬師として辺境の町に行っても薬師をするつもりです」



「バカな令嬢ですこと。エマの薬を使う人がいるはずもないのに。せいぜいこれ以上殺さないことです、ふふふ」



「私はもう出発します」



 ユリウス王子の新しい婚約者レイチェルと別れて王都を出発。



 レイチェルと話してムカムカした。



(私をバカにしている感じが伝わったし、ユリウス王子を奪われた感覚になったな)







 ふふふ、消えてくれて嬉しいとレイチェル令嬢は喜ぶ。



 エマと偶然に出会ったように思わせて、エマを待っていたのだった。



 レイチェル令嬢はエマが大嫌い。



 薬師としては有名だし、可愛いと言われるし、ユリウス王子と婚約までしている女が嫌い。



 初めて見た時から、エマが嫌いになった。



 この女だけは好きになれないと。



 ユリウス王子を奪ってやると思った。



 エマが薬師で有名なのだから、その知名度を落とせば、ユリウス王子はエマとの婚約は破棄するという計画を立てた。



 そして計画は成功した。



 計画はエマの薬を別の薬と取り換えること。



 エマの調した薬は有能で、病人には効果があったのだが、それではエマがますます評価されてしまう。



 レイチェルが取り換えた薬は全くの効果がない偽薬を用意し、取り換えたから、結果は酷い結果となるのは当然だった。



 病人は偽の薬を飲んだことで次々と病状は悪化していき、死んでいった。



 王都と周辺の町でエマの薬を飲むなと伝わり、エマは最悪の薬師だと悪評がたった。



 エマはその話を聞いてとても信じられなかったが、この悪評はユリウス王子の耳に直ぐに入ったのだった。



 ざまあですわと、レイチェルは笑う。



 結果はこの通りで、エマは婚約で田舎に追放される形になり、しかもレイチェルがユリウス王子と婚約までできた。



 最高の結果で大満足となった。



 それにエマの新しい婚約者は最低の冷血伯爵ですから、もっと最高になる。



 辺境で冷血伯爵とつまらない人生を送ればいいと。






 一方、エマの両親は気分は良くない。



 なぜならエマが辺境の町に送られと婚約する話は実はエマよりも先に聞いていたからだった。



 国王と侯爵家は親交があるから国王とも通じており、辺境伯と婚約させると言われていた。



 娘のエマが王子と婚約破棄になるのは正直に言って厳しい話でるものの、エマの悪評が響いていた。



 国王は薬師の悪評の令嬢を王子と婚約は無理だと言い、両親も受け入れるしかなかった。



 もし国王の意向に反対をすると侯爵家の爵位にも影響をしかねないから、逆らうのは絶対にできない。



 反対できないので、エマには何とか言って辺境伯と婚約するのを受け入れさせた。



 エマはこのことは知らないで出発した。

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