第18話 再会

──とある日曜日


私は橘さんに内緒でこっそり小説家志望の人が集まるサークルに参加していた。


翠川雅人直々に色々学べる今の環境は素晴らしいけど、段々と、同じように小説家目指してる人と交流してみたくなってきて、ネットを調べたら出てきたサークルに参加申し込みして、勇気を出して会場に来た。


ドキドキしながら部屋に近づいて、勇気を振り絞ってドアを開けようとした時、


「あ、この前ホテルで会った人ですよね……?」


突然声をかけられた。


ホテルで会った、『三浦淳一』らしき人。


「あ!あなたもここのサークルの方なんですか??」


「うん。色々な人と話してモチベーション上げたくて……」


「あの……三浦淳一さんなんですよね?やっぱり」


男の子は頷いた。


「すごい……また会えるとは思ってませんでした……」


なんてありがたい集まりなんだ……。


「嬉しいです。賞をとるような方とお話しできるなんて」


三浦さんは恥ずかしそうにしていた。


「運が良かっただけだよ」


「いえ!あの瑞々しい描写……感情の動き……ストーリー展開……凄い素敵です」


「ありがとう……とりあえず中にはいらない?」


「あ、そうですね……」


先に三浦さんか入って、私を紹介してくれた。


「えーと、名前は?」


「神谷美鈴です!」


色んな年齢の人達が集まってて、色んな本が並べられていて……


印刷した小説を持って来てる人もいて、やる気に満ち溢れていた。


「神谷さんはどんな小説書いてるの?」


三浦さんに聞かれた。


「えーと……まだちゃんとしたのは書けてなくて……」


「ふーん。そうなんだ。神谷さんの書く小説早く見たいな」


嬉しいんだけど……見せられない。


だって、私が最近書いてる小説は、橘さんに誘導されて書いてる、そういう描写がある作品ばかりで……


だから、そうじゃない作品を書く人達とも関わりたくて。


三浦さんが手に持っている、印刷した小説の文章が気になった。


「見てもいいですか……?」


「うん。いいよ」


じっくり読んだら、ファンタジー世界の話だった。


とても面白い設定で、まだ途中までしか書かれていなかったけど、とてもワクワクした。


「やっぱり三浦さんは凄いです」


「ありがとう。……あのさ、神谷さんの小説できたら、俺に見せてくれる?」


え、それは……、でも、せっかく声をかけてもらえたから……


「はい……書けたらお見せします」


三浦さんに見せられるストーリーを書かないと……。


エロス封印小説を書く事を決めた。


ただ何もネタがない。


「あの、話ってどうやって探せばいいですか?」


「昔経験した事とか……他の人の体験談でも、何かそこから話を膨らませるとか、かな?俺もまだ人に教えられる立場じゃない」


「わかりました!何か探してみます!」


その後、他の人の作品を見たり、意見交換で話を横で聞いてたりして、とても有意義な時間だった。


サークルが終わって、建物から皆で出てきた時、三浦さんから声をかけられた。


「連絡先聞いていい?」


「え!交換していいんですか!?嬉しいです!」


小説家の人とまた繋がりができた!!


嬉しくて胸がいっぱいだった。


「小説作ったら教えてね!」


そのまま三浦さんは爽やかに去って行った。


私はルンルンしながらマンションに向かっていた。


そしたら──


「おい」


低い声が聞こえた。


この声は……


ゆっくり振り返ったら、険しい顔の橘さんがいた。


「どこに行ってた?」


不機嫌な顔の橘さん。


橘さんとゆっくり過ごせるのは土日だけで、それを削ったから……それは不満だよね。


「ちょっと小説のネタを探しに……」


「俺が言った設定のは書いたのか?」


犯罪者と刑事のやつか。


「か、書きましたよ」


その後引きずられるように部屋に連れて行かれた。


橘さんに、それを見せた。


「なるほど……こういう結末か……。でも物足りない」


「何がですか?」


「エロスだ」


この人は私のその描写が好きなのか。


「今回はそんなにその描写の重要性と必要性を感じられず……」


「俺に必要なんだよ」


橘さんのために書いてるわけじゃない……


「私が自分の書きたいように書いたらダメなんですか?」


橘さんに壁ドンをされてしまった。


「俺の弟子になりたいとか言ってたのはどこの誰だ」


「はい、私です」


でも……だからといって、言いなりでは……


「俺のために書いて」


それは……


「私は私が書きたいものを書きたいです」


「そうか……」


橘さんは少し寂しそうに部屋のソファに座った。


「私……暫くそういう描写は書かないようにします」


「なぜ?」


「そうしたいからです」


橘さんはそっぽを向いてしまった。


「なら好きにすればいい」


憧れてたけど、言いなりはまた違う。


「はい、自分なりにやってみます」


気まずくて部屋から出ようとしたら、手を掴まれた。


「俺は憧れの小説家なだけなのか?」


「え……?」


「恋人とも呼べないこの関係。俺ははっきりさせて、ちゃんとしたい」


橘さん……


「すみません……中途半端な事をしてしまった私が悪いです」


そのまま引き寄せられて、抱きしめられた。


「理解はしてるけど、憧れの作家だけじゃなくて、ちゃんと俺を見て」


橘さんの苦しい程の気持ちが伝わってくる。


ダメだ、私がこんなんだと、苦しめてしまう。


「私、橘さんに甘えすぎてました。このマンションも出ます。」


「だめだ」


「でも!!」


「離れたら俺が壊れる」


壊れる……?


「壊れちゃうんですか?」


「うん」


どうしたものか。


「私は……ちゃんと一人で小説を書けるようになってからじゃないと、恋人にはなれないです」


「わかってる。そう思ってるのも」


橘さんの腕がさらに私を包み込む。


「耐えるから、愛させて。言葉にしなくていいから、心で伝えて」


この関係のままでいいの?


でもこの人を置いてどこかに行く事は、私も苦しい。


だって本当は私も同じ気持ち。


「ごめんなさい、苦しめて。」


私は橘さんを抱きしめた。


心の中で私の想いを伝えた。


意地を張って苦しめてる。


叶うかどうかわからない夢のために──

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る