第8章 — カイが忍者になろうとした日(そして壮絶に失敗した)
カイは魂がギブアップを申し出るレベルまで走っていた。
リュウナはその後ろを重い足取りで追いかけてくる。
笑顔キラキラ、テンション最高潮──
人間を“生涯パートナー”としてマーキングしようと追い回す者が持つべきではない種類のテンション。
「カーーーイ!!」
感電しかけた奴とは思えない明るさで彼女が歌う。
「どこ行くの!? 私も行っていい!?」
「“お前がいない場所”に行こうとしてんだよ!!」
カイは怒鳴り返した。
彼は砂の上を滑り、壊れた街灯が作る長い影の間、
ビーチ小屋の裏手へ走りこんだ。
そこで──
本当に、信じられないほど悪いアイdeaが閃いた。
「暗いとこにいれば……見つからない……よな? な? な?」
カイは自分に必死に言い聞かせた。
「だって空から人間の姿で落ちてきたんだぞ……? 夜目悪いかもしれねぇ!」
カイは壁に背中を押し当て、呼吸を殺した。
月明かりは弱い。
カイは微動だにしない。
音も立てない。
動きもゼロ。
完璧な忍者。
理論上は。
リュウナが路地の入口に現れた。
ゆっくり。
可愛さと太古の脅威を同時にまとった足取りで。
彼女は周囲を見渡し、大型犬のように空気をくんくん嗅いだ。
カイは息を止めた。
一歩。
また一歩。
完全に影の中心へと近づく。
カイは心の中でガッツポーズした。
「よし……よし……見えてな──」
リュウナは暗闇の中、
正確にカイの方向を指差した。
「カイ……なんで息止めてるの?」
カイの目が飛び出しそうになった。
「はあああ!? なんで分かるんだよ!!」
リュウナはにっこり微笑む。
「暗闇で……あなた、光ってるの。」
「俺が光ってるぅぅ!?!?」
「人間の魂はあったかいの。
海の底で迷子の小魚が発光するみたいに……」
彼女は手の中の小魚を見た。
「ほら、この子みたいに♡」
カイは絶叫しそうになった。
「魚と一緒にすんな!!」
リュウナはさらに三歩近づく。
カイは壁に押し付けられ、逃げ場ゼロ。
「もう大丈夫……逃げ場ないよ……」
彼女は頭を傾け、優しくて恐ろしい笑顔を浮かべた。
「ちょっとだけ……触らせて……ね……?」
カイは目を閉じ、叫んだ。
「触るなあああああ!!」
リュウナが爪を上げた。
──その瞬間。
ポフッ。
カイが消えた。
本当に消えた。
安っぽいマジックショーみたいに消え去った。
リュウナは瞬きした。
一回。
二回。
「……へ?」
左右を見る。
後ろも。
前も。
どこにもいない。
すると──
「いってぇぇぇ!!」
という声が“上”から聞こえた。
カイは小屋の天井にぶら下がっていた。
突き出た配線にひっかかり、
逆さづりで、
ゆっくりゆっくり回転しながら──
不良品のコウモリのように。
「計画してねえよこれぇぇ!!!」
カイが絶叫する。
リュウナは輝いた。
笑顔もさらにデカくなった。
「カイ……私の近くに登ってくるなんて……
受け入れてくれてる証拠だね♡」
「違う!! 滑って!! たまたまこれ掴んだだけ!!」
彼女は静かに手を伸ばす。
「じゃあ……降ろしてあげるね♡」
「や、やめ……! 自分で降り──」
リュウナは配線を引っ張った。
カイは真っ逆さまに落下。
彼女の腕に、ふわっと収まった。
リュウナは子猫を抱くみたいにしっかり抱きしめた。
カイはもがいた。
リュウナはさらに強く抱きしめた。
「よし……あとは、ちょっとした“引っかき傷”だけ……♡」
「やだやだやだやだああああ!!!」
カイは彼女の腕の下をすり抜け、
砂に顔面から突っ込み、
転がりながら立ち上がり──
全速力で逃げ出した。
再び絶叫しながら。
リュウナは幸せそうに追いかける。
その手の小魚は、依然として何も理解していなかった。
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