第13話チームメイト
「タ、タイムお願いします!」
「ターイム!」
一輝が審判に声をかけ、審判がタイムをかけ、
マウンドに野手が集まる。
「3回ワンアウト1.3塁なので内野定位置でお願いします。ゲッツー積極的に狙って行きましょう。
サードとファーストはランナー見てホームへ
お願いします」
俺が野手に指示を出しているが、焦斗は何も聞こえていない様だった。
「おい天野!こっち打たしてこいよ!欲張った
三振取りに入ってんじゃねぇぞ。」
「あぁ。分かってるよ」
御手洗の掛け声にも適当に返していた。
「交代するか?天野」
主将の鎌田さんが声をかける。
「いえ、平気です。」
焦斗が目を背けながらそう返す。
鎌田さんがファーストに戻る時
「日野の何を見ていたんだお前は。」
そう言っていた。
タイムの時間が終わりと主審に言われ
全員が守備位置に戻った。
次の2番打者を簡単に追い込みサインを出す。
(球数も3回で40球超え...
ここは遊び球無しで引っ掛けてゲッツーだな...)
スライダーのサインを出すが焦斗は首を横に振る
カットボールもツーシームも首を縦に振らない。
(...こいつ)
俺は少し考え、真っ直ぐのサインを出し構える。ストレートで三振を取り
次の打者も三振で交代した。
いつも通りのポーカーフェイスでマウンドを
降りる焦斗。
ベンチに戻り防具を外している時、焦斗が声をかけてきた。
「あの審判向こうのチームが呼んだんだろ。
俺の時ストライクゾーン狭すぎ。
完全に贔屓してるよ。」
「...は?何言ってんだお前?」
「勝たせたいんだよ。自分のチームを。
じゃなきゃ打たれん。」
「...」
「なんだよ。」
「お前がそう思いたいならそう思ってろよ。」
「はぁ?」
「自分一人で野球やってると思ってんのかよ。
昨日の夜言ってた事と日野さんとの違いを
もう少し考えて投げろよ。」
ヘルメットを被り、打席に向かう。
一輝が打席に入って構えている。
焦斗はベンチに座り込みながら考える。
(なんだよあいつ。俺何か間違ってたか??
際どい所は全部ボール。精度の悪い変化投げても上手いところに打たれる。だ
から力のある真っ直ぐで三振取るしかねぇだろ...)
この回も点が入らず、4回表に入る。
ロジンをポンポンと手で遊ばせ、セットに入る。
インロー真っ直ぐのサインだ。
グッ...ボッ! パァン!!
(インロービタビタ...流石に)
焦斗がそう思った瞬間
「ボール!!」と審判が告げる。
また際どいとこボールか。
そんなに勝たせたいかね...
俺が少しため息を吐くと
一輝が真っ直ぐ俺の方を見ていた。睨んでる?
真っ直ぐのサインをど真ん中に構える。
…いいぜ...
グッ...ボッ!!
ど真ん中にストレートが走る。
だが、 カァァン!!っと弾き返される。
打った打球はセカンド横へ走っていく。
(取れるな...まずは1アウ...)
そう焦斗が思った瞬間、 バチッ! っと
セカンドが球を弾く。
御手洗が急いでカバーしてファーストに投げるがセーフだ。
チッ...なんで取れねぇんだよ。
結局三振しかアウト取る方法ないじゃねぇか...
セカンドの先輩が何か言っていたが焦斗は
気にせず一輝のサインを見る。
1呼吸置いて一輝がまた真っ直ぐのサインを出す。
相手はさっき真っ直ぐ長打にされた5番だ。
グッ... 焦斗が振りかぶった瞬間、ダンッ!っと
ランナーが走り出す。
(?! しまったスチール!)
クイックが遅れスチールを許す焦斗
と同時に カァァン!! っと金属音が聞こえる
打球はライトに運ばれた。
マウンドで手に膝を着きながら焦斗が考え込む。
0アウト1.3塁。たった3球で...
ヤバい...こんなんじゃエースどころか
ベンチにも入れない...一輝と御手洗はほぼ確実にベンチ入りなのに...俺は...俺は...
急に孤独感が押し寄せてきた。
孤独は嫌いだ。自分だけ他のみんなと違う世界に飛ばされたような感覚になるから...
小2の時、親の転勤で広島から東京に
引っ越してきた。
まだ小学2年生と言えど、他のクラスメイトは
クラスに馴染んでたのに、馴染んでいない俺は
自分が異物だと思って学校にいた。
遊ぶ約束をしているクラスメイトを尻目に
家に帰って壁に向かってボールを投げていた。
「相手から話しかけて来ないことが悪い」
「俺から話しかける義理なんてない」
そんな捻くれた子供だった...
いや、今もそうだな。
地元の野球チームにも入れなかった。
知らない場所で知らない人達に急に溶け込むなんて俺には出来なかった。...勇気が無かったんだ。
そんな時声をかけてくれたのが一輝と結だった。
野球をやってると知るとすごい話しかけてきた
好きな球団、好きな選手とか、
気づけば色々なことを話してた。
クラスに馴染めたのも
八王シャークに入れたのも2人のおかげだ。
自分から寄り添おうとせず中学生になっても変わらない。その結果が今のこの状況。
日野さんは打たれても味方がエラーしても
声をかけてたな。
鎌田さんと一輝の言う通りだ...
俺じゃこのチームを支えるエースになんてなれ...
バシッ!
頭を叩かれた。
目の前には一輝がもう1発叩こうと
手を振りあげていた。
「あ、気づいた。」
「...いてぇ...」
「なーにボケっとしてんだよ!しゃんとしろ!
まだ0アウトなんだぞ!」
「ん...あぁ。ごめん。」
俺がそう言うと一輝がキョトンとした顔をしてた
「なに落ち込んでんだ?」
「いや。お前の言った通り俺じゃこのチームの
エースにはなれなそうだ。白田が肩作ってたろ?こんな状況で悪いけど、
交代して貰えないか聞いてくれ....」
バシッ!! また叩かれた。いてぇ。
「俺がいつお前がエースになれないって
言ったんだ!!不貞腐れてねーで俺のミット目掛けて投げてこい!」
「...」
「...はぁ...少しのミスで何うじうじしてんだよ。昨日の俺みてーで見てられねぇよ...
俺らはいつだって2人で成長してきただろ!
1人りで諦めて抜けようとすんなよ!!」
「一輝...」
「その通りだ。」
そう言いながら鎌田さんや内野手のみんなが
寄ってきていた。
「全員が全員最初から完璧なんてことは無い。
学べ、天野。その為に俺ら3年生がいるんだ。
そして学び気づいたお前が、お前の下のやつらに学び気づかせてやれ!それがチームだ」
「さっさとショートに打たせてこいよ天野!そろそろ来ねーと暇でしょうがねぇからなぁ!」
「...はい!!」
「焦斗!しまっていくぞ!!」
「あぁ!!」
タイムが終わり、焦斗が野手に声をかける。
「打たせていきます!!バックお願いします!」
野手全員が少し微笑みながら
「おう!」と返事する
ググッ...ボッ!! キィィン!
打球が一二塁間にライナーで飛ぶ。
「ファースト!!」
バシッ!! 鎌田が飛び込みキャッチする。
すると3塁ランナーが飛び出しており、
「サード出てます!!」と焦斗が声を張る。
ビッ! 「アウト!!」
ファースト鎌田のファインプレーでツーアウト。
今日調子の良い6番が打席に入る。
一輝がスライダーのサインを出し焦斗がコクリと頷く。
ググッ...ボッ!! カァァン!!
先っぽに当たったボテボテの打球がピッチャー
横に転がる。
打球は死んでいたが焦斗は取れない。
「くっ...!!」
「任せろ!!」
セカンドの3年生武田が声をかけ素手でボールを
取り、一塁へ転送。
絶妙なタイミングだ。
「...アウト!!」
「ナイスセカンドです!武田さん!!」
「おぉ!やっと名前呼んでくれたな!!」
勢いそのまま4回裏の攻撃に続く...
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