第3話 奴隷剣士の執念
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3. 奴隷剣士の執念
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闘技大会が始まった。
ユスティナは台座の上、厳重に警護された檻の中で、次々と繰り広げられる生々しい死闘を強制的に見せられた。それは彼女にとって、自身の屈辱的な立場を再認識させられる、残虐な見世物だった。
剣士たちは、姫を手に入れるという下卑た欲望に突き動かされていた。その眼差しは、血に飢えた獣そのもの。ユスティナは目をそむけたくなったが、それでは彼らの歓喜を助長するだけだと、強い意志をもって唇を固く結び、その惨状を睨み続けた。
何人もの剣士が砂に倒れ、生温かい血の飛沫が周囲に飛び散る。敗北は即座の死を意味した。
そして、その死闘の中、ユスティナが不可抗力のように視線を奪われる男がいた。奴隷上がりの剣士、カシウスだ。
彼は、貴族の騎士や名声ある傭兵たちとは違い、観客席からの熱狂的な声援も、見栄えのする派手な技も使わない。ただ、勝つことだけに、鋼のような執念を燃やしているように見えた。
カシウスの戦いは、泥臭く、無駄がない。まるで呼吸をするように、相手の命を断つ。
最初の数戦、彼の対戦相手は、彼を「汚い奴隷」と見下し、遊び半分で挑んだ。だが、カシウスは一切の感情を顔に出さず、ただ相手の剣の動きを冷徹に見極め、致命的な隙を電光石火で突く。彼の錆びた大剣は、貴族の磨かれた長剣よりも、よほど効率的で、残忍に血を流した。
一度、カシウスは強豪の騎士と対戦した。騎士は派手な魔法剣を使い、観客を沸かせたが、カシウスは防戦一方に見せかけ、騎士が勝利を確信してわずかに油断した一瞬、彼は地面に身を伏せ、泥の中で地面を蹴って騎士の鎧の隙間に大剣を突き刺した。
騎士が鮮血を噴いて倒れると、歓声は一瞬、不自然な静寂に包まれ、すぐに爆発的な怒号に変わった。
「卑怯者め! 奴隷風情が! 正面から戦え!」
観客は、騎士道的な美しい勝利のパフォーマンスを望んだ。だが、カシウスは観客の視線も、罵倒も、耳に入っていないかのように一切気にしない。彼はただ、倒れた騎士の高価な剣を奪い、自分の剣と持ち替える。そして、台座に立つユスティナを、静かに、しかし熱烈に見つめてから、闘技場を後にした。
ユスティナの心臓が、微かに、そして深く跳ねた。
彼の視線には、他の男たちの持つ醜い所有欲とは違う、何か純粋で恐ろしいほどの強烈な意志があった。それは、ユスティナという一人の女を、何としてでも手に入れ、この地獄から引きずり出すという、鋼鉄の如き決意のように感じられた。
(あの男……一体、何なの)
ユスティナは、彼に対する憎しみよりも先に、得体の知れない恐怖を覚えた。彼は、景品であるユスティナを見つめているのではない。彼の瞳には、彼の未来のすべてを映し出す「妻」だけが映っているように見えたからだ。
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