五章 『彼女の従姉妹』という微妙な立場。

第56話 『バレるまでは犯罪ではない(キリッ)』

 あれから時間は少し流れてそろそろ3月も終わり。


「もうすぐ入学ね。

 中学に進学した時のどうしようもないような絶望感ときたら……。

 それがこれからは、通学だけではなく学校でもあなたと一緒にいられるのだから天国のようなものよね」


 そう言ったのは猫のように俺の膝に頭を預ける明石さん。


「まぁ学校に通うって言っても式に出たあとは『ダンジョンに入るから授業は出ません』って書類を提出するだけで、授業らしい授業は受けないんだけどね?」


 2月の中頃に呪いは解くことは出来たのだが、五年間の間に彼女の首から上を蝕んでいた毒の侵食――肉腫となってデコボコとした傷跡まで消せたわけではなく。


「……絶対に惚れられてしまうから、私以外にそんな物憂げな顔を見せてはだめよ?」


 首に手を回し、そのままゆるく抱きついてくる彼女。


「いや、俺がそんな顔してても普通の人は辛気臭いって思うだけで惚れるとか絶対に無いからね?」


「私なら鼻に割り箸を入れていようとも惚れる自信がありますが?

 といいますかその小娘は引っ越しの最中だと言うのに、一体何を『この世界には私とあなたの二人きり』みたいな雰囲気を出しているのですか羨ましい!?」


「だって、私にせよ柏木くんにせよ部屋に私物なんてほとんどなかったうえに、その数少ない荷物ですら彼のインベントリに全部入れて運び込んだからこれと言ってすることなど無いのだもの」


 そう、ここはあの壁が江戸時代の長屋のようにウスウスだった、腐食した外階段が今にも崩れ落ちそうなボロアパートではなく、センニチダンジョンからもほど近いチュウオウ区のそれなりに家賃のお高い2LDKのマンションなのだ!


 まぁ家賃の支払い自体は中務さんが新しく立ち上げたペーパーカンパニーである『クエルクス』から全額出てるんだけどね?


「柏木さん、今からでも遅くはありません。

 私と一緒の部屋で暮らしましょう。

 なぜならばそれが一番合理的ですので。

 むしろ庭付きのお家を買って庭には白いブランコ裏庭には2羽のニワトリ……」


「そうよね、私に自分のお家なんて必要ないわ。

 ここには使っていない空き部屋もあるのだし……。

 いえ、そもそも一緒に寝るのだから個室もいらないわよね?」


「なんだろう、女の子と同棲とか嬉しいしかないはずなのに重力魔法かと思うほどのこのプレッシャーは……」


 そんな俺のご近所さん――というかお隣さんになった明石さんと中務さん。

 ちなみにこの二人もクエルクスの社員さん……というか、中務さんが代表取締役で明石さんも役員になってるんだけどさ。


「俺がお願いしておいていまさらですけど、本当に中務さんは迷宮管理局と兼業……そもそもあそこって副業可能なんですか?」


「柏木さん、この国にはこんなことわざがあります。

 『バレるまでは犯罪ではない』と」


「それ、絶対に諺ではないよね!?」


 もちろん、2月半ばからこれまで遊んでいたなどということは無く。

 さすがに女の子に365日ダンジョンに入れなどと言うのは気が引けるので、週に一度全休日を入れてたよ?


 ……中務さんによると、普通の探索者は半分働いたら半分休むというローテーションを組んでるらしいが。



 てことで最初に俺たちの成長ぐあいなのだが、


【柏木(かしわぎ)夕霧(ゆうぎり)】

 年齢:15歳 性別:♂

 所属:異世界日本人(転移者)

 レベル:08/50 クラス:【一覧】

 総合戦闘力:234 装備補正:皆無

 祝福:異世界商人(メルクリウス)

 スキル:【一覧】


マスターしたクラス一覧

 コモン・牧師

 コモン・駆け出し冒険者

 コモン・丁稚

 アンコモン・助祭

 アンコモン・新入り冒険者

 アンコモン・手代



 見た目がアハ体験レベルで変わってるけど、メルちゃんが最適化してくれたからなので気にしてはいけない。

 てことで、まずはレベルから。


 イエロースライムで6まで上がったと言うか6で止まっていたのが真・第一層の奥地――デミ・コボルトリーダー、ビッグ・ピッグワームと進んだことにより『8』まで上昇!


 まぁ一階ではどう頑張ってもそれ以上はあがらないみたいだから俺は黃スラ、明石さんはコボリーダーばっかり狩ってたんだけどさ。

 こっちを見つければ突っ込んで来てくれるスライムとかコボルトじゃなくてワームは粘着質な糸を飛ばしてくるから面倒だったんだよ……。


 続いては戦闘力。大きく上昇!

 というか、数字だけで見れば最初に見た中務さんの『235』とほぼ互角!

 ……もちろん中務さんにもスクロールを渡してるから、またまた差は広がったわけだが。


 数値の内訳としては初期値が『58』でレベルアップ分が『46』。

 そこにアンコモンジョブのマスターボーナスが2枠分、『60×2=120』が追加されて『234』ってわけだな。

 いや、ジョブのボーナス分がでかすぎるだろ……。


 そしてその下、マスターしたジョブの一覧なのだが。

 【丁稚】とか【手代】とか見慣れないものが増えてるけど、これは新規取引先である【ザック商会】で増やせたやつだ。


 ていうかザック商会、教会とか冒険者ギルドとは違って、俺が露天商だから態度が悪い態度が悪い……。

 確かに、向こうにいた時もあんまり良い噂を聞かない商会だったからなぁ……。


 俺以外の二人、明石さんと中務さんも同じようにスクロールを渡してる――いや、中務さんのほうはあんまりダンジョンに入ってないからそこまで成長はしてないんだけどさ。

 てことで明石さんの戦闘力が『238』で中務さんが『295』。


 ……うん、僅差ではあるけど俺が最下位なんだ。

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