第49話 彼女にとっての新しい日の始まり~ いつもニコニコ身体払い
さすがにいつまでも無防備に寝る女の子のおっぱいにくっついているわけにもいかず。
名残惜しくはあるがその温もりから距離をおく――離れたら離れたで色々と見えてくるものがあるんだよな。
……ほら、昨日って素っ裸で寝ちゃったじゃん?
頭とか下半身の一部の熱を冷ますために、そのままシャワーに向かう俺。
髪をタオルドライしながら部屋に戻った時には彼女も起きていて、眠そうにその目をこすって――
「……その『お風呂の中が見える窓に掛かってたブラインド』はどうして上がってるのかな?」
「私は何も知らないわ」
「『私は今起きたばかりです』みたいな演技してるけど、明石さんが座ってるその椅子ってあっちのテレビの前にあったやつを、お風呂が見える窓の前まで動かしてるよね?」
「あなたが何を言ってるのかわからないわ。
そんなことより柏木くん、一緒に朝風呂にしましょう」
今風呂場から出てきたとこだわ!!
渋る彼女を一人でお風呂に押し込み……どうしてこの子はマジックミラー越しにポーズをとりだしたのかな?
上げられていたブラインドをソッと下ろし、冷蔵庫――ってこれ、冷蔵庫じゃなくてジョークグッズの自販機じゃねぇか!
久しぶりに、うちにはない『文明の利器(テレビ)』を点け――部屋の中に大音量で響く女性の喘ぎ声。
「柏木くん!? 私という女がいるのに、どうして一人でしようとしてるのかしらっ!?」
「してねぇよ……」
ていうか、お風呂から出てくる時はせめてバスタオルくらいは巻いてきて欲しいかな?
「……はぁ。あなたのせいで、せっかく持ち込んだゴミ袋が無駄になってしまったわね。あっ、これお土産」
「本当に持ってきてたのかよ! ていうかお土産って何……避◯具じゃねぇか!!」
並んでホテルの外へ出たところで、くだらないボケを入れてきた明石さんに思わずツッコミを入れてしまい。
「柏木くん、さすがにこのような場所で大きな声を出すのは、ちょっとどうかと思うのだけれど。
ほら、通りすがりのお姉さんが虫でも見るような目であなたのことを睨んでるわよ?」
……どえらい辱めを受けることになってしまった。
狭い路地を抜け、大通りへと抜けたところでどうにか一息。
自販機でスポドリを2本買って明石さんに手渡す。
「……ありがとう。
仮面を被っているとこうして気軽に飲み物も飲めなかったのよね」
小さな声で呟いた彼女がペットボトルの蓋を開け、少しマスクをずらしてそれに口をつける。
「近い内に俺が、そのマスクもフードも着けないで出歩けるようにしてやんよ」
「あら、もしそうなったら私の美貌に視線が集まって大変なことになってしまうわよ?」
楽しそうに、でも儚げに。クスクスと笑う明石さん。
そんな彼女の後ろからそっと腕を回し。
「……冗談じゃなくて本気だからね?」
「……あなた、心の弱ってる女にそんなことばかり言ってるといつか刺されるわよ?」
なぜか恨めしそうな目で俺の事を見つめる明石さんと、二人並んで家路に歩き出そうとしたところで時計が目に入る。
「えっ? もう10時なの!?
明石さん! ちょっとこっちきて!!」
「えっ? なっ、そんな、こんなところで急に!?」
思わず自販機の影に彼女を引っ張り込むような形になってしまう。
「明石さん……そのまま目を閉じて……」
「も、もう……どうして外に出てからこんなこと……。
そういうのはホテルでしてくれればいいじゃない……」
マスクをさげ、こちらに顔を向ける彼女。
「あと、両手で耳も抑えて」
「あなたは一体私に何をさせるつもりなのかしら!?」
いやほら、まだもう少し余裕はあるけど、そろそろ薬の効果が切れるじゃん?
昨日のうちに予備のポーションを用意しておけば、明石さんが言うようにせめてホテルで気づいてれば良かったんだけど……女の子といっしょにラ○ホとか、正直いっぱいいっぱいだったからね?
「不本意……非常に不本意……まさか外でアレをやることになってしまうとは……」
人通りは……それほど無し(無いとは言っていない)。
明石さんは……目と耳を塞いでいる(見ていない、聞こえていないとは言っていない)。
覚悟を決め、むしろいつもより派手な身振り手振りで――
「メルクリウスっっっ!!!」
あれ? そこの通行人のお姉さん、どこかで見たことがあるような……ああ、さっき俺のことを床に転がったカメムシの死骸を見るような目で見つめてた人か。
あれ? お姉さんはあっちに向かって歩いていったよね? ……なるほど、道を間違えて戻ってきたと。
ていうかお姉さん、少し前にコンビニで会わなかったかな?
クッ……殺せ……っ!
「それで、さっきのあれはなんだったのかしら?」
「やっぱり見てたのかよ!!」
そこは深くは追求しない流れじゃないのかよ!!
「というか、さっきのメルクリウスってあなたの部屋から稀によく聞こえてくる……そういえば昨日、ポーションを持ってきてくれた時も聞こえてたわね」
「そのあたりも勇者の秘密ってことで」
胡乱な目でこちらを見ながら「あなた、最初から隠すつもり無いでしょう」と呆れ声の明石さん。
いや、隠すつもりはあるんだよ! メルちゃんに隠れる気が無いだけで!
「てことでこれ、今すぐ飲む分と、夜――21時に飲む分で合計4本渡しとくね」
「小瓶がいきなり何も無いところから現れた、なおかつ空中に浮いていたのだけれど……ありがとう、今の私には何のお返しも出来ないけれど、この恩には必ず報いるわ」
「だから恩とかそういう考え方はしなくていいんだけど……って、そうだ!
この時間からだともう、今日は学校には行かないよね?」
「私は入試も終わったし、卒業式までは自由登校よ」
「ならちょうどいいや。
昨日も約束した通り、これからポーション代金をその身体で返してもらおうかな?」
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