第50話 初めてのジョブ『MA・☆』。

 ホテル街から徒歩10分。

 やってきたのはもちろん、


「ここってセンニチのダンジョンモールよね?」


「そうそう。これから明石さんには探索者登録をしてもらいます」


 俺の職場であり戦場でもあるセンニチダンジョン。

 あっ、中務さんが久しぶりにインフォメーションに立って――


「おはようございます! ていうか、どうしてそんな仲間を呼んだスライムがいきなり合体を始めた現場をみてしまった冒険者みたいな顔してるんですか?」


「えっ? スライムって6体集まると合体するんですか!?」


「しませんけど」


「しないんですか!?

 ……いえ、スライムとか今はどうでもいいんですよ!

 あなたの半歩後ろは私の特等席のはずですよね!?

 その場所をどうして知らない泥棒猫が歩いてるんですか!!」


「泥棒猫て……えっとですね、ちょっと込み入った事情がありまして……明石さんはどうしていきなり左腕にからまってきたのかな?」


「よくわからないけど、私の中のぬらりひょんがそうしろと囁いたのよ。

 それで、そちらのやたらと目立つ、輝いたおば……お姉さんはどこのどなたなのかしら?」


「こちらは俺がお世話になってる管理局の職員さんで……中務さんはどうしていきなり右腕にからまってきたのかな?」


「それは私の中のオーバーロードがそうしろと命じてきたからです」


「もしかして世界を滅ぼそうとでもしてるのかな?」


 『妖怪軍団の総大将』と『最恐のアンデッド王』を心の中に飼ってるとか、二人の闇が深すぎる……。



 さすがに入り口でこれ以上騒ぎ立ててると怒られそうなので――すでに注目を集めすぎて視線が痛いくらいになっているので――いつもの部屋に案内してもらうことに。


「ということで、こちらは俺が住んでるアパートの隣に住んでる明石静さん。

 個人情報になりますのであまり大っぴらには出来ませんが、いろいろと込み入った事情がありまして。

 彼女にも探索者証を発行してもらいたいんですけど」


「それはつまり柏木さんと一緒にダンジョンに入ると?

 いいでしょう、百度テストを受ければ百度堕ちるように手を回しておきましょう」


「なんでやねん」


「と言いますか明石静……どこかでその名前を聞いた覚えが……。

 ……昔、上杉の跡取りの婚約者だった准男爵家の娘がそのような名だったような」


「あら、随分昔のことをよく覚えてるわね」


「柏木さん、こんな私が言えたことではありませんが。

 あなたは訳あり、曰く付き、何かしら因縁のある女を引き寄せるフェロモンでも出しているのですか?」


「それでモテるなら是非とも欲しいくらいですが、残念ながらお情け以外で女性が寄って来た試しがないんですよねぇ」


「あいかわらずの自己評価でむしろ安心しました。

 といいますか、彼女ならその顔を隠すためにおかしな仮面を被って生活していると聞いたことがあるのですが」


「……別にあれは隠すためというわけでも無いのよ? ジュクジュクになった顔を覆うための何かが必要だっただけで。

 血膿を撒き散らしながら動き回るわけにもいかないでしょう?」


「それが今はそのように薄いマスクとフードを被っているだけ……もしや柏木さんのポーションで病が癒えたのですか!?」


「残念ながら……症状を抑え込むことしか出来ていません」


「それにしても、治療方法の見つからなかった難病だと聞いていましたが。

 メロンソーダは思ったよりも凄い効能なのですね」


「あー、そもそもその、『病気』だという出発点が間違ってたみたいでして。

 彼女が患っていたのは病ではなく『呪い』。それも毒まで併用された『蠱毒』だったんですよ」


「呪いですか。それは医学ではどうしようもなさそうですね。

 それなら、陰陽寮や裏高野の退魔師などに依頼して――」


「残念ながら陰陽、神道、密教、どれもこれも何の効果も無かったわ」


 呪いはあるのに神仏の力が発揮されないこんな世の中じゃ――ポイズ……いや、そんな曖昧な拝むだけのものじゃなく、今の俺のジョブって神職なんだよな。


 なんとなくスクロールが手に入ったし、なんとなくそのうち光魔法とか使えそうと思って育ててるけど……魔法が使えるようになったらポーションの代わりになる――いや、逆だな。そもそもポーションが回復魔法のバーターなわけだし。


 残ってる商品購入数は『44』。

 10日足らずでどうやって馬と馬車を揃えるか悩んでたけど、ジョブを育てるだけならどうにかなりそうでは?


「……ちょっと火急の用事が出来たから俺はダンジョンにもぐってくる!

 中務さん! 丸投げになっちゃうけど明石さんの探索者登録の件よろしくお願いします!

 たぶんお昼すぎ……三時くらいには戻ってくると思うから、明石さんは中務さんの指示に従って!!」


「かしこまりました。こちらで手続きをしておきますのでお気をつけて」


「えっ? 柏木くん!?」


* * *


 てことで【真・第一層】で黃スラを狩り続けること400弱。

 いや、別に数を稼げればよかったから青でも緑でもよかったんだけどさ。

 コモン・クラス【牧師】の経験値が満タンになったタイミングで、呼び出してもいないのに小さなポップ画面が表示される。


『おめでとうございます。

 経験値が上限に達したことにより、コモン・クラス【牧師】がアクティベートされました』


 おお! ちゃんと知らせてくれるとかめっちゃ親切!

 こういうところはメル某氏にも見習って欲しいものである。


『こちらを管理しているのも私なのですが?』


 ……と思ったらまさかのご本人だった。


「てかメルちゃんって呼び出さなくても勝手に出てこれたんだ!?」


『フッ、私、出来る女なので』


 文字だけの存在に性別があるのかと……。


「さっそくだけど、牧師のアクティベート? で出来るようになったことを教えて!」


『そうですね牧師が『MA・☆』されたことにより――』


「いきなり文字化けみたいなのがあるんだけど。『MA・☆』ってなんぞ?」


『フフッ、それはですね!

 最初は☆マークが付いていただけでしたが、それだけではあまりにも味気ないので、私が修正しておきました。

 MA・☆ → マ・☆ → マ・Star → マスター。

 さぁ、存分に爆笑してください』


 笑えるどころか『イラッ』としただけなのでとりあえずスルーの方向で――


『さぁ、存分に爆笑してください。

 もしも今すぐ笑わない場合は爆発します』


 面倒くせぇ奴だな!?

 てか何が爆発するんだよ!?


『あなたのオチ○チンが爆発します。性的な意味で』


 それ、ただの射○だよな!? 絶対に止めろよ!?

 ていうかメルちゃんは俺の体を操作することまで出来るのか!?

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