第2話はいよ。

はいよ。


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「いいか、佐藤。この新商品『ギャラクティカ・エナジーX』のキャッチコピー、頼んだぞ。ターゲットは全人類。テーマは『宇宙』と『やさしさ』と『爆発』だ。なんかこう、見た瞬間に『うわ、飲まないと人生損する!』って思わせるやつ。明日までな」


 鬼の形相の部長は、嵐のようにそれだけ言うと、会議室から去っていった。

 残された俺は、テーブルの上に置かれたギンギラギンの缶を前に、頭を抱えていた。


 宇宙と、やさしさと、爆発…?

 なんだそのカオスな組み合わせは。ビーフシチューにいちごジャムとタバスコを全部入れるようなもんじゃないか。無理だ。絶対に無理だ。


 自席に戻り、ノートを開く。

 『銀河の恵みが、君の細胞を優しくノックする。』…ダメだ、気色悪い。

 『やさしさ大爆発!宇宙スケールで、お疲れ様。』…もはや意味が分からない。

 『コズミック・テンダネス・エクスプロージョン!』…横文字に逃げただけだ。


 書いては消し、書いては頭をかきむしる。もう何が正解なのか、そもそも正解など存在するのか。俺は誰で、ここはどこだ。思考が宇宙の彼方へ旅立ちかけた、その時だった。


「お、佐藤くん。まだやってんのか」


 背後から、のんびりした声がした。振り返ると、定時で帰ったはずの清掃員のおじさんが、ゴミ箱を片付けながら立っていた。この会社で一番の古株で、俺たちの知らない会社の歴史をたくさん知っている、生き字引のような人だ。


「ああ、お疲れ様です。ええ、まあ…キャッチコピーが、その…」

 俺は力なく笑った。

「ほう、キャッチコピーねえ」

 おじさんは興味深そうに、俺のデスクの上の缶を眺めた。


「どんな飲み物なんだい、そりゃ」

「なんか、すごく元気が出て、でも体にやさしくて、未来の味がするらしいです…」

 我ながら、何を言っているのか分からなかった。


 おじさんは「ふうん」と一つ頷くと、ゴミ袋の口を縛りながら、こともなげに言った。


「じゃあ、これでいいんじゃないかい」


 え?

 俺が顔を上げると、おじさんは人の良さそうな笑顔で、こう続けた。


「『まあ、いっか。』」


 ……まあ、いっか?


「宇宙とか爆発とか、色々考えすぎて疲れちまった時にさ。これを一本飲んで、『まあ、いっか』って思えたら、それが一番のやさしさで、元気の素なんじゃないのかねえ」


 おじさんは「じゃ、お先」と片手をひらひらさせ、がらんとしたオフィスから出て行った。


 俺は、ぽかんとしたまま、ノートに走り書きされた難解な言葉の羅列と、目の前のギンギラギンの缶を交互に見た。


 宇宙も、やさしさも、爆発も。

 全部まとめて、飲み干して。


 『まあ、いっか。』


 …ああ、なんかもう、それでいい気がしてきた。

 俺は大きく伸びをすると、ペンを置き、静まり返ったオフィスで一人、ふっと笑った。明日の部長の顔が目に浮かぶようだ。

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