第11話『三体 墨子、烈火』~第21話『地球反乱軍』までを読んで
・仕事が忙しかったこと。
・三体を構成する要素や構造に言及していること。
これらの理由から、感想が飛び飛びで時系列もバラバラです。
【VRゲーム】
三体に出てくる平民たちは、地球が過酷になると己の体から水を排出して乾燥した布のようになる。水に浸かることで元に戻る。
今さら気づいたが、これはアフリカの肺魚が元ネタだ。
乾燥した人間たちに意思があるのかわからないが、死と生を延々と繰り返している。
このは小説ずっと破壊と創造の繰り返しについて言及されており、肺魚(平民)もそのルールの一部だ。
ゲーム世界は過酷だ。どうあがいでも逃れられない。
第11話『三体 墨子、烈火』で、「シンプルに見えるものは複雑であり、複雑に見えても実際はシンプルだ」という内容があるが、これは以前のページに出て来た「清明上河図」と繋がっている。
また、そのあと文潔の家に行くと「大事件だと思ったことも、たいしたことがなかった」ということもあるという話をされる。
これは三体のという小説全体・そのものを指しており、群像劇であり様々な思惑や歴史が入り組んでいるように読めるけれど、最後まで読めば実はとてもシンプルな話なんだよ、という暗示じゃないか? と思う。
第17話は始皇帝の治める世界が舞台だ。
まさか、手旗信号でコンピュータを再現するとは思わなかった。そのスケールのデカさよ! さらっと物語に組み込み、コンピュータ知識のない読者にわかりやすく説明している作者の力量に唸った。
この人力コンピュータは、複雑に見えてもシステムはシンプルだ。
旗揚げの白と黒で構成されているが、つまりこの演出も「シンプルなものが実は複雑であり(略)」というテーマを表していて、そこも面白かった。
あと、ニュートンがクズに書かれてて控えめに言って草。
実在した彼自身が人間性に問題のある人だったようですね。
有名なリンゴの木の逸話は洒落てて結構好きなので意外。
【シンプル・複雑】
文潔が出会う
雷は、文潔に親切に振舞っているように見せて実は嘘をついていた。
楊は、文潔に厳しく当たっているように見せて彼女が傷つかないように守ろうとしていた。
表面と中身が違うという表現は本当に多い。
第21話『地球反乱軍』で、彼女こそが反乱軍の総帥であると明かされる。
登場シーンがかっこいい、映像になったらドーン! と登場しそうだ。ドラマチックな音楽と共に。
無害に見えてそうではなかった、それまで歴史に振り回されるだけだった彼女が今度は歴史を振り回す側に回った、という表現だ。
【
本の序盤で 『文潔の人生は大きな円を描き、出発地点に戻ってきた。』(本文引用) とあった。
この一文がずいぶん意味深で、個人的に良い意味で引っかかっている。
「老いたから簡単には行けない」
と言っていた記憶がある。
つまりこれは複線で、作中のどこか、またはエンディングで彼女は紅岸基地に戻ってくるのではないだろうか?
若いころに働いていた場所に、老いてからやってくる。円がぐるりと一周しており「繰り返し」という本作のテーマとも一致する。
また、汪淼と関わった。彼の名前には水が三つも入っている。
この作品において水は命の源として常に描かれている。
乾燥した肺魚(平民)は水で元に戻る。
また、滅びに向かう三体世界の宇宙人は、水の星・地球に救いを求めてやってくる。
つまり、水の名を持つ汪淼はこの物語の救い主になるかもしれない。
少なくとも、彼を友人と紹介した文潔にとっての。
彼の言葉または行動で文潔は基地に行くのかもしれない。
この物語では「物事はバランスが大事」だとも繰り返されている。
・文潔→老人、女性、名前に「葉」(植物)
・汪淼→中年、男性、名前に「水」
バランスが取れている。
きっとうまくいく、救いがあると思えてならないのだ。
【第18話 オフ会】
三体を遊んでいる人間たちのオフ会。
そこに集まった六人のうち二人について言及されている。
・白髪で血色の良い年配者。(現代科学に東洋哲学を吹き込んだ)
・奇抜な服装の作家、中年女性。(前衛的な作風、彼女の本はどのページから読み始めてもいい)
年配者の性別に言及されていないが男性だろう。
彼は作者の論理的な面を抽象的に表したキャラだと思う。
作家女性は、作者の感情面を表したキャラではないだろうか。
その理由は、彼女の書いた本は「どのページから読み始めてもいい」とあるからだ。これは三体そのものだ。
三体は同じ「構造・テーマ・主張」が、何度もなんども繰り返しくりかえし、手を変え品を変え書かれている。
どのページから読んでも、作者が表現しようとする内容は変わらないので読み取ることができますよ、という表れではないだろうか?
また、年配者と中年女性は以下のテーマも背負っている。
・年配者→死(戦争や闘争による破壊という意味)。昔から社会を回してきた者。現状維持または生への執着(三体文明人類侵略に慎重という意味)。地位や名誉。
・中年女性→生(子を生み出す者という意味)。近代になり社会進出してきた者。改革またそのためには死をもいとわない(三体文明人類侵略に賛成という意味)。話題性。
対照的な象徴として記号的に配置している。
【三体の構造】
読んでいて、アガサ・クリスティーの傑作、ミス・マープルを思い出した。
彼女は小さな村に住む老婦人だが、見事に難事件を解決してしまう。その犯罪を解く時の論理・思考と同じ部分がある。
何かというと、物事はスケールが違うだけで根本は同じという点だ。
マープルは村で経験した身近な出来事を元に、複雑なトリックを解いてしまう。
例えるなら次のようにだ。(この例はオリジナルです)
・Aさんの家の木が、隣家のBさんの敷地にはみ出しました。問題に発展しました。
・A国の船が、B国の海域に侵入しました。問題に発展しました。
このように、物事はシンプルに見れば根本はそう変わりがない。
そして三体も(例)のように、さざまな出来事を個人間の問題として書いたり、国として書いたり、地球人と宇宙人というスケールで書いている。
そこが似ていると思った。
【感想】
作者は明確に己の中に作品の設計図が描かれているため、スタートからゴールまでブレがなく、またいくつもの伏線や暗喩を効果的に記すことができる。
今回触れた、「シンプルな中に複雑さがあり、複雑そうに見えても実はシンプル」これは三体そのもののテーマの一つだ。
だからこの小説は分厚くて難しそうに見えるけれど、結局は第一話で語られた文革の内容・構造が全てであり、それをありとあらゆる表現で擦り続けているのではないか。
なぜならば、我々人類の歴史そのものも破壊と創造(死と生)の繰り返しだ。人も国も地球も、そのルールから逃れられない。
また、全ては滅びに向かっている。
三体世界という地球ではない宇宙人さえ、そのルールから逃れられない。
宇宙でさえ最後は死ぬと言われている。
だからこそ、最後に至るまでの過程が、つまりどう生きるかが大事なのだろう。
その過程に意味があり情報が込められている、と主張したいのではないだろうか?
さらに、この作品は「シンプル」という言葉を繰り返している。
また、VRゲーム三体は何度も文明が滅ぶがそのたびにまた新しい文明が生まれた。
数行前で宇宙は死ぬと書いた。
だが、「死」には過程が多くてシンプルとは言えない。
「産まれ」たことで「死ぬ」からだ。
「誕生」これこそが最もシンプルであり、どんなに絶望的な状況でも可能性が生まれるのだという希望を捨てないやさしさがあるように思える。
宇宙は死んでも、また新たな形で生まれるのかもしれない。
少なくとも、この本の中では地球の物理法則は宇宙で通用しないとあり、我々が想像もできない可能性があることを指示している。
大傑作『三体』の初見の感想・考察 米田 菊千代 @metafiction
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