第18話「魔王、ワンパンで星を作る」

 森の入口。

 今日もツトムはレジ前で、のんびりと棚の補充を眺めながら一息ついていた。


「今日は平和だといいな……」


 その願いは、外から響く怒鳴り声で粉々に砕け散る。


「この店に入るな! 俺が必ず止めてやる!」


 出禁になった例の商人が、木の棒を振り回しながら張り付いていた。

 額には【出禁】と書かれた謎の魔法刻印が、ぴかーんと輝いている。


(あれ、やっぱり消えないんだ……)


 通りがかりの冒険者たちは、入口を塞ぐ商人に困った顔だ。


「すまないが通してくれないか?」


「嫌だ! この店に入るやつは皆俺の敵だ! 転売の邪魔をしやがって……呪ってやるぞ店主ぅ!」


「呪わないでください……」


 ツトムは店の中で情けなく呟くしかない。


 その時だった。


 森の向こうから、ぽくぽくと軽い足音が近づいてくる。


「……なにこれ、店の前が汚れてる」


 仮面の女。

 黒髪に赤い瞳、肩掛けケープをひらひらさせた女が現れた。

 見た目は可愛いが、背中から濃密な“魔力の霧”が漏れている。


ツトムは見覚えがあった。


(あ、この間、アイス半額の時に来た“魔王”ちゃんだ……)


 魔王は商人の前で足を止めた。


「あなた、うるさい。邪魔」


 商人は魔王に怒鳴り返した。


「子どもは引っ込んでろ! ここは俺のーー」


ぱん。


 乾いた音。


 何が起きたのか、誰もわからなかった。


 次の瞬間。


 商人は、夜空に向けて一直線に飛んでいった。


「ひぃぃぃいいい!? 俺、まだ買い物してないぃぃぃぃぃ——!」


 そして、星になった。


 本当に、きらりと光った。


 森の冒険者たちは、ぽかん。


 ツトムはレジの奥から震えた声で呟く。


「ワンパン……」


 仮面の姿の魔王は手のひらをぶんぶん振って、微妙に痛そうにしていた。


「ふん。弱いし、邪魔だし、声大きいし。ああいうの嫌い」


 そして、魔王はツトムに向け無表情のまま小さく手を挙げる。


「店主。今日もアイス買う」


《いらっしゃいませ。スーパーマーケット〈テンガイ〉へようこそ》


 アナウンスの強制買い物が流れ、魔王少女はついっとカゴを手に取る。


 ツトムは深いため息をついた。


(魔王が常連って……この店どこまでカオスになるの……?)


 しかし、ツトムは悟る。


 これでもまだ、平和な方なのかもしれない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る