第16話「妖精たちの大行列と精霊女王の保護者参観」
昼下がり、店内はほどよく賑わっていた。
ツトムが菓子棚の補充をしていると、天井付近からキラキラした光が降りてくる。
「……あ、これ嫌な予感しかしないやつ」
次の瞬間、入口の自動ドアが開いた。
ウィーン。
《来店者を確認。購買行動を開始します》
ツトムの視界いっぱいに、小さな光の群れが流れ込んだ。
「わー! おかしいみせだー!」 「これなにこれなに!」 「たべもの! いっぱい!」 「ちょっと待ちなさい走らないの!」
妖精たちが十数人(十数匹?)どたどた飛び回りながら入店してきた。
その後ろに、ひときわ大きく、上品な薄金色の光をまとった女性型の妖精がふわりと現れる。
ツトムは思わず直立した。
(あれは……明らかに偉い立場のやつだ……!)
妖精の女王らしき彼女は、申し訳なさそうに微笑む。
「突然の来訪、失礼するわ。我が子らがどうしても『例の店に行きたい』と言ってしまって……」
ツトムは慌てて頭を下げた。
「と、とんでもないです! いらっしゃいませ!」
女王は優雅に店内を見回しながら続ける。
「どうか、彼らを見守ってあげてほしいの。まだ人族の文化に慣れていないから……」
その横で、すでに妖精の子供たちが大暴れしていた。
「この“ポテチ”って、はこべるかなー?」 「ひとつじゃ足りないよ、十こほしいー!」 「待ちなさい、カゴを使うのよカゴを!」
ツトムは急いで妖精用の小さなカゴを用意する。
するとアナウンスが、自動で妖精たちを認識した。
「妖精族のお客様を確認。サイズ調整ショッピングモードを起動します」
棚の高さがふわっと低くなり、商品が妖精サイズに縮んでいく。
「おおー! やさしいみせだ!」 「ぼくたちのせかいみたい!」
ツトムは心の中で叫んだ。
(ほんと勝手に機能増えるよな!)
女王が微笑んで言う。
「あなたの店は、本当に不思議ね。子らが喜んでいるわ」
「いえ……勝手にやってるだけなんで……」
店内はさらに騒がしくなる。
妖精のひとりが惣菜コーナーで“唐揚げ”に群がり、
「これ! ぜったいたべたい!」 「まだ食べちゃダメ! あとでお金はらうの!」
ツトムは全速力で走る。
「だから食べるのはレジのあとだってば!」
一方、別の妖精は果物コーナーでりんごを見つめながら言った。
「この“りんご”って、おうちに持って帰ったら大きすぎる……どうしよ……」
アナウンスがまた勝手に対応する。
「妖精族のお客様に向け、商品サイズの縮小加工を行います」
りんごがひとまわり小さくなった。
「おおお! やさしい! おみせすごい!」
ツトム「俺じゃなくて店がすごいんだよ……!」
そして、店を回っていた精霊女王が、ふとツトムのそばへ寄ってきた。
「あなた、大変ね……。でも、ありがとう。子らにとって、あなたの店は安全で、楽しい場所のようだわ」
ツトムは少し照れた。
「まあ……仕事なんで。でも、喜んでもらえるなら……まぁ……」
その時、レジ前で妖精たちが騒ぎ始めた。
「おかいけい! おかいけい!」 「ぼく、はやく“レジびー”やりたい!」
「レジびー……?」
ピッ。
妖精のひとりが空中でスキャン音を真似していることに気づき、ツトムは苦笑した。
「そんなにレジが楽しいなら、順番に来てね。ちゃんと一列に並んで」
女王が子どもたちをまとめ、きちんと一列に誘導した。
「ほら、順番を守るのよ。騒がない、ケンカしない。よい子にしていれば、また来られるから」
その様子はまるで 保護者参観の母親 だった。
ツトムは思わずつぶやく。
「……なんか、保護者さんみたいですね」
女王は笑って答えた。
「ええ。母親のようなものよ。妖精たちは皆、私の子どもみたいなものだから」
レジが終わると、妖精たちは袋いっぱいの小さな食品を抱えてわいわいと出口へ向かった。
女王は最後にツトムの前でふわりと頭を下げた。
「今日のこと、深く感謝するわ。子らの面倒を見るのは大変でしょうけれど……また来ると思うわよ」
ツトムは、苦笑しながらも素直に微笑み返した。
「はい……またお待ちしてます。どうぞ、お気をつけて」
妖精たちは光の粒となって店の外に飛び去っていった。
静けさが戻った瞬間、ツトムは床にへたり込む。
「……ちょっと可愛かったけど……いや疲れた……!」
ルガートが肩をたたく。
「ツトム、妖精の子らに気に入られたな」
バルガンもうなずいた。
「次はもっと増えて来るかもしれんぞ」
ツトムは泣きそうな顔で答えた。
「やめてぇぇぇぇ!」
その時、自動ドアがまた開く。
ウィーン。
アナウンスが言った。
《来店者を確認。購買行動を開始します》
ツトム「早すぎない!?」
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