第10話「暗黒向け商品、謎の陳列開始。」

 翌朝。

 ツトムは休憩室で頭を抱えていた。


(……魔王軍が常連客って何?

 これ絶対イヤなフラグ立ったじゃん……)


 とはいえ、嘆いてばかりもいられない。今日も開店準備は待ってくれなかった。


 店内へ出るとすでにルガートとバルガン、そして強制労働中の戦士たちが黙々と準備していた。


「ツトム殿、今日もよろしく頼む」

 バルガンが丁寧に頭を下げる。


「うん……よろしく……。てかさ、ルガート。なんか変わったもの置いてない?」

 ツトムが指さすと、ルガートは「ああ、あれか」と頷いた。


 その先を見た瞬間――ツトムは思わず固まった。


 暗黒のモヤがぽわぽわと立ちのぼる黒光りの棚。

 そこにずらりと並ぶ、あり得ない“黒い商品”の数々。


(……なにこれ!!?)


 震える指で一つ手に取る。


『超魔界仕様 コーンポタージュ(闇)』


「闇ポタージュ!? 色が黒い!?」


 ほかにも歪んだセンスの商品が並んでいた。


・暗黒カップ奈落しょうゆ

・魔族専用エナジードリンク《魔魂ブースト》

・“呪”湿布呪符スースー冷感

・影狼用ドッグフード《闇肉ミックス》


「勝手に“魔族向け”ラインナップ増やすなぁぁぁ!!」


 するとアナウンスが淡々と響く。


《昨日の購買データを参考に、需要の高い暗黒商品を陳列しました》


「AIスーパー怖すぎ!!」


 ルガートは一転、真面目な表情で言った。


「だがツトム。これは好機かもしれんぞ」

「どこが!? 全部ホラー食品だよ!?」


「魔王軍は国家として最大勢力だ。彼らを顧客にできれば、他国との交易にも影響する」

 バルガンも頷いた。「昨日、魔族たちは満足して帰った。つまり“また来る”」


「だから怖いんだってば!!」


 ツトムの叫びもむなしく、魔族向けの暗黒コーナーは、いつの間にかルガートたちの手で、やたらスタイリッシュに整えられていた。


 黒曜石の棚、魔石の照明、暗黒のモヤ発生器。

 完全に“専門コーナー”だ。


「……なんかやたら凝ってない?」


「当然だ。客層が拡大するのは良いことだからな」

(いやぁ……ほんと異世界の人間って商売根性えぐい……)


 その時――


《新規顧客の接近を感知しました》

 アナウンスが告げる。


「また来た!? 魔王軍!?」

「気を引き締め、いや、これは……」


 入ってきたのは魔王軍ではなく、普通の村人たちだった。


 しかし。


「昨日さ、黒い軍勢がこの店に入っていくの見たんだけど」

「魔王軍御用達って本当か?」

「暗黒ポタージュ売ってるって聞いたぞ!」


「情報広がるの早すぎない!?!?」


 さらに衝撃。

 村人たちは迷うことなく暗黒コーナーへ直行した。


「見ろよ黒いカップ麺! なんか強くなれそう!」

「この呪湿布、絶対効くやつだ!」

「影狼飼ってねぇけど買っとくか!」


「買う理由どこ!?!?」


 ルガートは満足げに腕を組む。


「これが“商機”というやつだ」

「ツトム殿、今日もレジは忙しくなるぞ」


「いやいや、普通の村人が暗黒食品買い漁る世界って何!?」


 だが叫んでも無駄だった。

 暗黒コーナーは開店1時間で“ほぼ完売”する。


《暗黒商品の売上が非常に好調です。次回入荷時、“闇の国”との契約を検討します》


「また世界がひとつ繋がるぅぅぅ!!」


 その時、店の外からひやりと冷たい風が流れ込んだ。


「……来るぞ」

 ルガートの声は険しい。


「え、また魔王軍!?」

「いや……これは、もっと“面倒な客”だ」


 森の奥から青白い霧。

 低く、響く声。


「この店か」

「人間も魔族も関係なく買い物できる店があると聞いた」


 ルガートがつぶやく。


「……“亡霊族”だ」


「死んでる客まで来るの!?!? あああああ!!」


次回につづく?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る