8話 チュテレール第二王女
ジャッドが狙撃銃を片している最中、全身黒焦げになりかけたジェラールが姿を現した。
「ぜぇ……ぜぇ……何とか、辿り着いた」
「お疲れ様です、ジェラール先生」
ナタンが逃してしまった敵を前にしても、彼女は全く動じなかった。
それ以上に、この事態を既に想定していたかのような落ち着きぶりだ。
「ジャッド様、少し余裕出しすぎじゃないですか?
無残にオレは真っ黒ですが、まだ暴れ足りませんぜ!」
ジェラールは自分に活を入れたかと思うと、魔術の刻印を光らせた。
その模様を見て、ジャッドは冷静に分析を始めた。
「"筋力強化魔術"……パワー系のあなたらしい魔術ね」
「左様! 貴殿は尊き国王の娘であらせられるが、戦場で身分はただの飾りにしかなりません!
手加減はしませんので、ご覚悟を!」
それだけ言うと、ジェラールは全力で彼女に突進してきた。
(――早い)
ジャッドは寸前のところで身を翻したが、攻撃の衝撃で近くの地面が音を立てて亀裂が走った。
まともに受けたら一撃で重傷を負いかねない。
だがジャッドは一瞬相手の動きが鈍くなったのを見逃さなかった。
その隙にジェラールの背後に回り、どこからかサブマシンガンを取り出した。
「――っ!」
ジェラールは反射的に大剣を構え、何とか銃弾を全て弾いた。
いつの間にか彼女が持っていた狙撃銃は消えており、サブマシンガンは懐に入れそうなサイズではない。
ジェラールは一瞬、何が起きたのか戸惑った。
「――なんの!
これしきの不意打ちでこのオレを仕留められるとでも!」
ジェラールは再び自分に活を入れると、またジャッドに向かって走り出した。
ジャッドは持ち前の観察力で攻撃を避け続け、ほんの僅かな隙を見つけては何度も攻めた。
ジェラールは一瞬の油断できないため、体力を神経も疲弊し始めていた。
それだけではない。
彼女は臨機応変に銃を幾度も取り替えていた。
サブマシンガンにライフル、ショットガン、ハンドガン……
隠し持っているわけでもないのに、手品のように次々と銃が出てくる。
ジェラールが焦りを必死に抑えながらジャッドを観察すると、彼女が銃を取り替える時に刻印が淡い青色に光るのが目に入った。
「なるほど、"召喚魔術"か! 面白い!」
ジャッドの手の内が分かったジェラールは、一気に畳み掛けんと体制を変えた。
その気迫は凄まじく、背の高いジャッドが小さく見えてしまうほどだ。
(……そろそろ頃合いね)
ジャッドは見計らったように左手にハンドガンを召喚した。
そして今までとは違い、向かってくるジェラールに向かっていきなり銃口を向けた。
「おっと!」
ジェラールは反射的に反応し、彼女の左手を払いのけた。
握っていたハンドガンは宙に舞ったが、ジャッドは眉を全く動かさなかった。
出来た隙を見て止めを刺そうとしたジェラールは、不意に彼女の右手が視界に入った。
そこには、下から相手の心臓を狙っているリボルバーがあった。
「しまっ――」
ジェラールが反応をする寸前に、ジャッドは引き金を引いた。
ナタンが慌てて丘の上に到着すると、既に二人の勝敗は決していた。
彼から見て右手には無傷のジャッド王女。
そして左手には……胸の中央にインクがべったりと付いたジェラールが呆然と佇んでいた。
「ジャッドさん! 良かった無事で!」
ナタンが安堵すると、ジャッドはいつもの優しい笑顔を彼に見せた。
「ごめん、僕の詰めが甘くて危険にさらしちゃって……」
「気にしないで、こうなることは一応想定していたから」
ジャッドは、頭を申し訳なさそうに下げるナタンの背中をさすった。
指揮官は、軍の要だが脆弱という印象がある。
だから大抵の場合、敵の中心にたどり着いた時点で一旦安心してしまう。
しかし、ジャッドは銃の腕に自信がある。
もしわざと指揮官である彼女が姿を露わにして、隙があるように見せたらどうか?
あまりにもあからさまでなければ、油断した敵の方が決定的な隙を見せるのだ。
このような牙を弱点だと思わせて敵を誘い込む方法は、彼女の一番得意な戦法だった。
割と予想しづらい上に、ジェラールのような格上の相手でも刺さりやすい。
正にこの見晴らしの良い丘は、色々な意味で好都合なのだ。
ジャッドは特別チームの本拠地の方を向くと、再び狙撃銃を召喚した。
狙撃の準備を整えた後スコープを覗くと、未だにヴェベールと戦っているアデルの姿が映った。
やはり、前線を突破するのはかなり大変なようだった。
「あっち、大丈夫そう?」
ナタンはジャッドに不安そうに問いかけた。
彼女は少し戦いの様子を観察していたが、銃を構えたまま口を開いた。
「――順調ね。
アデルはいい
「……は?」
彼女の一言に、近くにいたジェラールは驚きの声を上げた。
想像以上に目立ってしまっているが、実はアデルは本命ではない。
わざと派手に戦い、敵の注意を引くのが本来の役目だ。
はなから彼は、シュヴァリエの頭にある鉢巻など狙っていない。
「あとはこの作戦の要、ヴェロニック次第ね」
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