静かな時間の流れと、過ぎ去ったものへの視線が穏やかに重なっていく作品でした。
文芸部の部室や喫茶店の空気、コーヒーの匂いや煙、西陽の中の靄といった描写が自然で、読んでいるうちに自分の記憶にも触れられているような感覚になります。
先輩と交わす「空をどう表現するか」というやりとりが、物語の奥でずっと息づいていて、終盤の月を見上げる場面へと静かにつながっていくのが印象に残りました。
時間の中で言葉から離れてしまった心と、それでもどこかに残っているものが、心地よい距離感で描かれているように感じます。
読み終えたあと、ふと空を見上げてみたくなる、そんな余韻を受け取りました。